会社に歌は必要か?音楽教育から考える「聴く力」と「表現する力」

職場で楽譜を持ち合唱する日本人社員たち

社歌や合唱というと、少し古い企業文化のように感じられるかもしれません。しかし、声を合わせることや音楽を共有することには、組織の一体感だけでなく、聴く力・表現する力・協働する感覚を育てる意味があります。音楽教育の視点から、この問いを考えてみたいと思います。

社歌・企業音楽の歴史と役割

日本でも近代以降、企業独自の歌が作られるようになったとされます。戦後の高度経済成長期には、社員の一体感や帰属意識を高める文化として広がり、多くの企業が朝礼や入社式で社員全員で歌う習慣を持っていました。

社歌が果たしてきた役割は、単なる「会社のテーマソング」ではありませんでした。共に声を合わせるという行為そのものが、人と人の間に連帯感をもたらします。同じリズムや旋律を共有する体験は、自然に呼吸や感覚を合わせる時間を生み、人と人の距離を近づけます。

近年は朝礼での社歌斉唱という文化は少なくなりましたが、その代わりに企業のイメージソングやブランドサウンドが重視されるようになっています。音楽が組織のアイデンティティを伝える手段として機能している点は、時代を超えて変わらないといえるでしょう。

音楽が職場にもたらす効果

職場における音楽の役割は、感情面だけではありません。音楽心理学の分野では、音楽環境が集中力や気分の変化に影響を与える場合があるとされています。ただし、効果は個人差が大きく、作業の種類によっても異なりますので、一概に「音楽を流せば生産性が上がる」とは言い切れません。

より注目したいのは、「共に歌う」「音楽を通じて表現する」という行為が持つ力です。合唱や声を合わせる体験では、他者の声に耳を傾け、自分の声を調整し、全体の調和を意識するというプロセスが求められます。

そこには、感性だけでなく、状況を読み取りながら表現を組み立てる論理的思考も働いています。どのタイミングで、どの強さで表現するかを瞬時に判断しながら、周囲と呼吸を合わせる——この営みは、職場でのコミュニケーションや協働に必要な感覚と、深く共鳴しています。

35年以上の音楽指導の現場でも、合唱や合奏の経験を持つ方が、グループレッスンでの協調性や柔軟な表現力において優れている場面を多く見てまいりました。

歌うことで育まれる力——音楽教育の視点から

音楽教育の観点から見ると、歌うという行為には複合的な力が働いています。音程を合わせるためには聴覚と身体感覚を統合する必要があり、歌詞を通じて言語と感情を結びつける力も求められます。

人前で声を出す経験は、緊張の中でも自分を表現する感覚を育てます。その積み重ねが、少しずつ自信につながっていくことがあります。発表会の経験を重ねてきた生徒たちが、社会に出てからプレゼンテーションや交渉の場でも落ち着いて自己を表現できるという話を、保護者の方々から伺うことがあります。音楽を通じて身につけた「人前で表現する力」は、職場で自己を表現する際にも、一つの支えになり得るのです。

また、歌や音楽は感性を豊かにします。感性とは、物事の本質を感じ取る力であり、人間ならではの価値判断の基盤となるものです。AIが多くの業務を担うようになった現代において、感性・論理的思考力・自己表現力はますます重要な人間固有の力として位置づけられています。音楽に親しむことは、その力を育む一つの道といえるでしょう。

音楽のある暮らしを、職場にも

「会社に歌は必要か」という問いへの答えは、単純ではありません。社歌を全員で歌うことが今の時代に合うかどうかは、組織の文化によるでしょう。しかし、音楽や歌が持つ「人をつなぐ力」「感性を育てる力」「自己表現を豊かにする力」は、職場においても確かな意味を持ち得ます。

音楽との関わりは、子どもの頃に限るものではありません。大人になってから楽器を始めたり、声楽を楽しんだりする方も多くいらっしゃいます。大人になってから音楽を始めたい方、声楽やピアノを通じて表現の時間を持ちたい方は、ぜひ一度体験レッスンで教室の雰囲気をお確かめください。

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