聴音とは? 特徴と効果的な練習法を解説

音楽のイメージ

聴音とは、耳で聴いた音楽を五線譜に書き取る訓練です。音楽高校や音楽大学の入試科目として知られていますが、それだけのものではありません。聴いた音を捉え、記憶し、構造として理解し、楽譜に表す力は、演奏する人にも曲を作る人にも関わる音楽の基礎です。この記事では、聴音の定義と種類、関係する音楽の力、入試での扱い、海外の音楽教育での位置づけ、効果的な練習法までを、専門的な視点から解説します。

聴音とは? 音を聴いて楽譜に書き取る訓練

狭い意味での聴音は、演奏された音楽を聴き、音の高さ・リズム・拍子・調性・和声などを捉えて楽譜に書き取る訓練と、その試験を指します。

日本で「聴音」と呼ばれる書き取りの課題は、英語圏では dictation(ディクテーション/書き取り)にあたります。これは、ear training(イヤートレーニング/聴覚訓練)と呼ばれる領域に含まれます。イヤートレーニングは、視唱や内的聴覚、聴取、記譜なども含む、より広い学習領域として扱われる例があります。この記事では、書き取りとしての聴音を中心に、その広い領域とのつながりまでを扱います。

楽譜を読み、内的に音を思い描き、実際の音へ移す過程に対し、聴音は、実際の音から構造を捉え、楽譜へ移す逆向きの課題です。両者は同一ではありませんが、音高・リズム・調性・内的聴覚などを介して相互に関係します。本記事では、この往復を「音と楽譜を結ぶ音楽の読み書き」と捉えます。

聴音では、音を聴き取るだけでなく、それを標準的な記譜法で表現する力も必要です。音高が分かっていても、拍子、音価、休符、連桁、臨時記号、調号、複数声部の配置などを正しく書けなければ、楽譜として十分に伝わりません。演奏の技能と、聴いた音を楽譜に書き表す技能は、同じものではありません。楽器がよく弾けても、聴いた旋律をすぐに楽譜にできるとは限らず、その逆もあります。聴音は、耳の訓練であると同時に、音楽を書く訓練でもあります。

なお、聴音に絶対音感は必須ではありません。課題によっては、基準音や調性を手掛かりに、音程や和声を相対的に捉えて取り組めます。

聴音の種類——リズム・単旋律・複旋律・和声

聴音には、何を聴き取るかによって種類があります。

リズム聴音は、拍子・音の長さ・休符を聴き取ります。拍を感じる力と、拍を分割する力が中心です。単旋律聴音は、一本の旋律を聴き取ります。音程、調性感、リズム、そして旋律を覚えておく音楽的記憶が必要です。複旋律聴音は、二声以上の独立した旋律を同時に聴き取ります。声部を分けて聴く力が求められます。和声聴音は、和音や和声進行を聴き取る課題で、3〜4声などの形で出題されることがあります。和声の機能や、低音・内声の把握が中心です。

ここで二つの聴き方が関わります。旋律を時間方向に追う水平的な聴き方と、同時に鳴る音の関係を捉える垂直的な聴き方です。複旋律聴音では、複数の声部を水平に追いながら、声部どうしの縦の関係も捉えます。和声聴音では垂直的な聴き方が中心になりますが、和声の流れを追う水平的な聴き方も欠かせません。この二つの聴き方は、後で述べる和声・対位法・アンサンブルの理解へつながります。

入試で扱われる課題は、学校・専攻によって異なります。たとえば東京都立総合芸術高等学校の音楽科では旋律と和声の書き取りが、東京藝術大学音楽学部では単旋律・複旋律・四声体和声が課されてきました。聴きながら書くのではなく、記憶してから書く課題(記憶聴音)が出される場合もあります。発展的な課題には、三声・四声、無調や半音階的な旋律、複雑なリズム、楽器編成を伴う多声部の聴き取りなどがあります。

聴音はどのような音楽能力と関係するか

聴取・記憶・内的聴覚・記譜

聴音は、一つの能力で行うものではありません。音の高さ・音程・リズム・調性・和声を捉える力。聴いた音楽を覚えておく力。音を頭の中で鳴らす内的聴覚。複数の声部を聴き分ける力。そして楽譜として書き表す力。これらを同時に使います。国立音楽大学のソルフェージュ教科書『聴音』(音楽之友社)は、聴音の目標として四つを挙げています。聴いた音楽を正確に楽譜に定着すること。楽譜から音楽を想像する耳を育てること。音程や響きの感覚を演奏に応用すること。聴いた音楽を記憶し、構成を把握することです。この四つは、聴音の広がりを示しています。

そのため、聴音は音楽の基礎能力を構成する重要な一領域といえます。ただし、聴音が音楽の能力そのものではありません。音楽には、演奏技術、音色、フレージング、創造性、即興、表現、様式の理解といった別の次元があります。聴音の得手不得手を、音楽の適性と結びつけないことが大切です。

ソロ演奏

ソロの演奏では、自分の音を聴きながら修正する、楽譜から音を内的に想像する、次の和声を予測する、暗譜で構造を保持する——こうした場面に聴音で扱う力が関わります。

アンサンブル・室内楽・オーケストラ

声楽や合唱では、自分の声の音程を、伴奏や他の声部との関係の中で聴き取りながら歌います。楽器のように音高が固定されていないため、聴いた音と自分が出す音を絶えず照合する力が求められます。合唱、アンサンブル、室内楽、オーケストラでは、自分のパートだけでなく、他の声部を同時に聴く必要があります。主旋律と内声、バスと上声、横方向の旋律と縦方向の和声を捉えることが求められます。複旋律聴音や和声聴音は、こうした複数声部の聴き分けに関係する基礎課題の一つです。指揮では、多数の声部をスコアと実際の響きの双方から把握します。

作曲・編曲・音楽理論

作曲や編曲では、頭の中に浮かんだ音を楽譜へ変換する力が要ります。これは「内的聴覚→記譜」の流れで、聴音の「実際の音→記譜」と同じ方向です。既存の作品を分析するときは「楽譜→内的聴覚」が働きます。複数の旋律線を独立して追う聴き方は対位法的な書法を理解する際に、和音の連なりを捉える聴き方は和声法を理解する際に関係します。冒頭で述べた「音と楽譜を結ぶ読み書き」の往復は、ここで演奏と作曲の両方につながります。

音楽高校・音楽大学の入試と聴音

音楽高校・音楽大学では、学校・専攻によって聴音が入試科目として課されます。以下の例は、2026年9月時点で各校が公表している実施要項や試験内容をもとにしています。入試科目や出題形式は変更されることがあるため、受験される方は必ず最新の募集要項をご確認ください。

まず高校です。東京都立総合芸術高等学校の音楽科では、器楽・声楽・作曲・楽理の四つの専攻すべてに共通して、旋律および和声の書き取りと新曲視唱が課されています。旋律課題は長調と短調が各一題、和声課題は四声体で一題です。高校の入学者選抜の段階で、四声体の和声を聴き取って書く課題が出されていることになります。専攻ごとの実技はこれとは別に設けられており、聴音と新曲視唱が専攻をまたぐ基礎的な検査として位置づけられています。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校も、聴音試験の課題を公式サイトで公開しています。

大学入試でも、専攻実技とは別に聴音や視唱を基礎能力として確認する例があります。東京藝術大学音楽学部では、「音楽に関する基礎能力検査」が設けられてきました。その筆記試験の一つが聴音書き取りで、単旋律・複旋律・四声体和声の三題が出題されています。対象は作曲科・声楽科・器楽科・楽理科です。同じ検査には、歌詞を伴わない初見唱である新曲視唱、リズム課題、そして楽典も含まれます。聴く・歌う・書く・音楽理論を理解する力を組み合わせて確認する構成と見ることができます。

同じ大学の中でも、聴音の形式は一様ではありません。指揮科の聴音では、単旋律・複旋律の書き取りに加えて、受験者に楽譜を与え、試験委員の演奏との相違点を指摘させる課題が出されています。聴覚的な判断力と和声の感覚を見るためです。器楽科の打楽器では、リズム感のテストとともに、ピアノで与えられた音の音名を答える形の聴音が課されています。入試で「聴音」と呼ばれる課題は、必ずしも五線紙への書き取りだけではないことが、ここに表れています。

学校が変われば、さらに違いがあります。国立音楽大学では、声楽専修に聴音や新曲視唱ではなく、視唱教本『コールユーブンゲン』から当日指定された一曲を歌う試験が課されてきました。東京藝術大学では声楽科にも聴音書き取りがありますから、同じ声楽でも学校によって確かめ方が異なることになります。

試験の進め方も学校によって異なりますが、共通する骨格はあります。音部記号・調号・拍子などの条件が先に示され、基準となる音やテンポが与えられ、課題が複数回演奏される、という流れです。全体を通して演奏する通奏と、前半・後半などに分けて演奏する分奏を組み合わせる方式もよく用いられます。演奏回数や間隔は課題ごとに定められていますので、各校の公式要項で確認してください。

聴音を課している学校では、専攻実技とは別に、聴取・記憶・構造把握・記譜といった基礎能力も評価の対象になっていることが分かります。国立音楽大学は、視唱・聴音・リズム・読譜を含むソルフェージュを「音楽家の基礎訓練」と位置づけています。

準備のポイントは三つです。柔らかめの鉛筆を使うこと(指定がある場合はそれに従う)。書き直しに時間を取られ過ぎないよう、必要な修正を手早く行いながら記譜する練習をすること。小節の枠を意識して、拍ごとの空間を整える習慣をつけることです。

答案作成で注意したい点は四つです。空欄を残さず、聴き取れた範囲を記譜すること。調号・臨時記号・音価などを正確に書くこと。拍子と小節内の拍数を合わせること。複旋律では上下の声部の時間的な位置を揃えることです。採点方法は学校・試験によって異なるため、配点や部分点については各校の試験要項や指導者の指示を確認してください。

海外の音楽教育に見る聴音の位置づけ

クラシック音楽の伝統はヨーロッパにあり、聴音にあたる訓練の呼び方や位置づけは国によって異なります。各国の公式資料で確認できる範囲で、代表的な例を挙げます。

フランス——フォルマシオン・ミュジカル

フランスでは、かつて「ソルフェージュ」と呼ばれた科目が、現在は formation musicale(フォルマシオン・ミュジカル)と呼ばれています。音楽の基礎教育にあたる科目です。パリ国立高等音楽院のフォルマシオン・ミュジカルの専門課程では、読譜、リズム、聴取、聴き取って書き起こすことなどの技能を扱います。ラジオ・フランスの解説によれば、パリ音楽院の伝統ではソルフェージュが将来の専門家に必修であり、その中に音楽の書き取りが含まれていました。日本語の「ソルフェージュ」という語は、この系統の科目名にあたります。

ドイツ——ゲヘーアビルドゥング(聴覚訓練)

ドイツの音楽大学では、Gehörbildung(ゲヘーアビルドゥング/聴覚訓練)が入学適性試験に含まれる例があります。ミュンヘン音楽・演劇大学のピアノ専攻の要項では、筆記試験の内容が示されています。音程や和音の識別、長調・短調の単旋律の書き取り、調性に縛られない主題の書き取り、簡単な聴取分析です。これに実技部分が加わります。デトモルト音楽大学は「音楽理論と聴覚訓練」を一つの専攻とし、聴くことと理解することは密接に結びついていると説明しています。

イギリス——聴覚テスト

イギリスの英国王立音楽検定(ABRSM)は、実技のグレード試験のすべてに聴覚テストを含めています。内容は、演奏を聴いて拍を叩く、旋律を歌い返す、強弱や調性などの特徴を答えるといった形式で、五線譜への書き取りではなく、聴いて応答する形で聴く力を確かめます。書き取りを課す試験とは、確かめ方が異なる例です。

米国——イヤートレーニングと書き取り

米国では、イヤートレーニングと呼ばれる領域の中に書き取りが置かれています。バークリー音楽大学は、イヤートレーニングを全学生の必修の中核科目としています。到達目標には、基準となる音を与えられたうえで楽譜から視唱することが挙げられています。リズム・旋律・和声を記譜法で書き取ること、音を頭の中で正確に鳴らすことも含まれます。さらに、読む・聴く・歌う・弾くをリアルタイムに結びつけること、聴覚の力を演奏・即興・作曲と統合することも到達目標です。ジュリアード音楽院のプレカレッジ課程では、和声・旋律・リズムの構造を、歌唱やリズムなどによる実演と書き取りを通して認識します。上級では、その力を演奏レパートリーへ応用するとしています。

ロシア——ソルフェージュ

ロシアでは、子どもの音楽学校の予備専門課程で「ソルフェージュ」が必修科目とされています。連邦国家要件に基づく各校の課程には、視唱、正確な音程で歌う訓練、聴取分析、音楽の書き取りが含まれます。聴覚・記憶・リズム感を育て、楽器の学習を支える科目と位置づけられています。

これらの事例では、聴覚の訓練は書き取りだけに限定されず、視唱、内的聴覚、聴取分析、演奏などと結びつけて扱われています。一方で、科目の呼び方は国によって異なります。フランスではフォルマシオン・ミュジカル、ロシアではソルフェージュ、ドイツや米国では聴覚訓練に相当する枠組みの中で、書き取りが扱われています。イギリスの検定試験では、書き取りを課さずに聴く力を確かめています。日本の「聴音」は、ソルフェージュの一分野として書き取りを中心に据えた、このうちの一つの形です。

効果的な練習方法——音楽的構造を意識して取り組む

聴音の力を伸ばすうえで大切なのは、単なる音当てではなく、音楽的な構造と予測を伴った知的な聴取です。

基礎の習慣は二つです。例えば一日一題など、短時間でも継続して、聴取と記譜を繰り返す習慣を作ること。そして、録音して自己採点し、誤答を分析すること。何を、なぜ間違えたかを整理すると、次に確認すべき点が明確になります。何題やるかより、正答を確認し、誤答を分析し、短い単位に分け、再聴のときに着眼点を決めることが大切です。

音楽の構造を踏まえた聴き方は四つです。調性を正確に把握すること(調号・終止形を意識すると、臨時記号の予測と判断がしやすくなります)。和声の流れを意識すること(I–IV–V–I などの典型的な進行に親しむと、次の音を予測しやすくなります)。モチーフの反復や変化を捉えること(繰り返される音型を把握すると、記憶と再構成がしやすくなります)。記譜の視覚的な整合性を高めること(拍の位置や小節内のバランスを整えると、答案が読みやすくなり、拍数や声部のずれにも気づきやすくなります)。

音楽は文脈をもった芸術です。「次に何が来るか」を予測しながら聴くことは、旋律・和声・形式の文脈を捉える手掛かりとなり、演奏解釈ともつながります。

聴音が苦手なときの考え方

聴音が全くできないと感じても、絶対音感がないこと自体を原因と決めつける必要はありません。聴音では、課題によっては基準音や調性を手掛かりに、音と音の関係を相対的に捉えることができます。相対的な音程、調性、和声の機能を捉える力は、段階を踏んで身につけていくものです。

苦手な場合は、リズムだけ、短い単旋律だけと、聴き取る要素を絞るところから始めます。誤答の分析はここでも中心になります。音程・リズム・記譜のどこで間違えたかを分けると、練習すべき箇所が見えてきます。一人では原因を整理しにくい場合は、指導者と課題の量や順番を調整することも有効です。

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聴音とソルフェージュの関係

聴音は、ソルフェージュを構成する一分野です。ソルフェージュでは、視唱・聴音・リズム・読譜などを通して、楽譜、内的聴覚、実際の音を結びつけ、楽典的な知識も実践の中で扱います。当教室では、初心者から専門家を目指す方まで、音楽理解と演奏を支える基礎学習として継続的に取り組むものと位置づけています。ソルフェージュの全体像と各分野のつながりは、ソルフェージュとはで整理しています。当教室のソルフェージュのレッスンは、ソルフェージュのレッスンをご覧ください。

聴音に関するよくあるご質問

聴音に絶対音感は必要ですか?

必須ではありません。課題によっては、基準となる音や調を手掛かりに、音と音の関係を相対的に捉えて取り組めます。入試でも、基準音やテンポが示されたうえで課題が演奏される形式が用いられています。

独学でも身につきますか?

教材や音源を使って一人で取り組むこともできます。ただし、誤りの原因が音程なのかリズムなのか記譜なのかを判断するには、聴く側にも基準が必要です。自分の答案を見てもらえる相手がいると、自分だけでは気づきにくい誤答の原因を確認しやすくなります。

楽器が弾ければ聴音もできますか?

演奏の技能と、聴いた音を楽譜に書き表す技能は同じものではありません。楽器がよく弾けても、聴いた旋律をすぐに楽譜にできるとは限らず、その逆もあります。聴音は、書き表す側の力を育てる訓練です。

まとめ

聴音とは、正解の音を当てる試験ではありません。聞こえた音楽を理解し、記憶し、構造として捉え、楽譜に表し、楽譜から音を内的に想像するための、音楽家の基礎的な読み書きの力です。リズム・単旋律・複旋律・和声という種類があります。入試では学校・専攻・選抜区分に応じて基礎能力の評価として課され、海外の音楽教育でも、呼び方は異なりながら、視唱や聴取分析と結びつけて学ばれています。

聴音で扱う聴取・記憶・構造把握・記譜の力は、演奏やアンサンブル、作曲など、さまざまな音楽活動で用いる基礎能力とつながっています。焦らず、毎日の練習の中で「音楽を聴く耳」を育てていきましょう。

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