アンサンブルとは、複数の演奏者が一緒に音楽を奏でることをいいます。ピアノの連弾、弦楽四重奏のような室内楽、吹奏楽やオーケストラ、そして合唱まで、規模も編成もさまざまです。
アンサンブルに取り組めば協調性が自動的に身につく、と言い切れるものではありません。ただし、複数の人がひとつの音楽をつくる場面では、ひとりで演奏するときには使わない力が必要になります。この記事では、そこで実際に何が行われているのかを整理します。あわせて、「協調性」という言葉がしばしば誤解されている点についても触れます。
ソロ演奏では、楽譜や作品の様式を踏まえながらも、テンポ、間の取り方、音量の変化について、演奏者自身が判断して完結できる範囲が大きくなります。
アンサンブルでは、そうはいきません。隣の奏者がどのテンポで来るのか、どこで息を吸うのか、いま自分の音は全体のどこに位置しているのか。演奏しながら、それらを把握し続けることになります。
ソロでも自分の音を聴くことは欠かせません。アンサンブルではそこに、他の奏者の音を聴きながら、自分の音をその場で調整し続ける作業が加わります。
代表的な形態を挙げます。
当教室主宰らの著書『音楽教育のススメ 改訂版』では、アンサンブルで働く力が次の4つに整理されています。
| 働く力 | 内容 |
|---|---|
| 他の奏者を聴きながら調整する力 | 他の奏者の音を聴き取りながら、自分の音量や音色を調整する |
| 時間と呼吸を共有する力 | 拍やテンポ、フレーズの呼吸を全員で共有する |
| 言葉を使わず合図を送り、受け取る力 | 音、呼吸、身体の動きから、演奏中に意図を伝え合う |
| 全体と自分の役割を捉える力 | 曲全体の構造を理解し、自分のパートが果たす役割をつかむ |
それぞれについて、実際の場面を補って見ていきます。
他の奏者を聴きながら調整する。自分の音だけを基準に弾いていると、全体のなかでは必要以上に大きくなっていたり、反対に役割が伝わらないほど小さくなっていたりします。自分の音を、全体の一部として聴くことになります。
時間と呼吸を共有する。メトロノームに合わせるのとは違います。演奏中には、ごく小さなタイミングのずれが生じます。奏者は共通の拍や呼吸を保ちながら、互いの音を聴いて、そのずれを瞬時に調整します。曲が始まる前の一呼吸、フレーズの終わりの余韻——数字では書き表せない時間を共有します。
言葉を使わず合図を送り、受け取る。演奏中に言葉は使えません。最初の音を出す合図、テンポを変える合図、終わりの合図。目線や身体の動きだけでなく、音そのものや呼吸も手がかりになります。
全体と自分の役割を捉える。同じ楽譜でも、自分のパートが旋律か伴奏か対旋律かで、出すべき音は変わります。楽譜には強弱やフレーズが示されていますが、実際の編成や音響のなかでどの程度前に出るかまでは、一義的に決まりません。曲の構造と他のパートを聴きながら判断します。
アンサンブルの練習は、音を合わせる作業だけではありません。
指導者やメンバー同士で意見を交わしながら、曲の方向性を探ります。「ここはこうしたほうがいいのでは」「どう感じる?」——そうした対話を重ねるなかで、互いの考えに耳を傾け、違いを受け入れ、ひとつの音楽をつくり上げていきます。
ここで起きているのは、意見の一致ではありません。同じ楽譜を前にしても、人によって感じ方や表現は異なります。その違いに気づくことが出発点になります。自分の考えを持ちながら、他者の意見も尊重し、そのうえで最適な表現を見つけていく。答えがひとつに決まっていない問題を、複数人で解いていくわけです。
ただし、アンサンブルそのものが自動的に協調性を育てるのではありません。互いの音を聴き、意見を交わし、役割を調整する過程があってこそ、他者と音楽をつくる経験になります。各自に理解できる役割があること、聴き合う必要のある編曲であること、指導者が答えをすべて与えないこと、振り返る機会があること——そうした条件によって、同じ「合奏」でも経験の中身は変わります。
ここが、最も誤解されやすいところだと感じています。
「協調性」という言葉は、しばしば「自分を抑えて周囲に合わせること」と理解されます。アンサンブルでも、目立たないよう音量を落として弾けばよい、と考える方は少なくありません。
もちろん、テンポや音程、響きを合わせることは必要です。しかし、それだけではありません。
アンサンブルにおける協調性とは、自分を消して周囲に従うことではありません。曲全体と自分の役割を理解し、他の奏者の音を聴きながら、必要な場面では前に出て、支える場面では音量や音色を調整することです。
旋律を担当している場面で遠慮して音量を落とせば、音楽は成立しません。逆に、伴奏の場面で前に出続ければ、旋律が聞こえなくなります。合わせることと、埋もれることは違うのです。
同書では、この在り方を「自らの役割を理解しつつ、自分らしい個性を豊かに響かせていく」と表現しています。
この経験が音楽以外の場面にどのように関わるかは、一律にはいえません。ただ、異なる考えや表現を持つ相手と、ひとつの成果をつくる過程を経験できることは、アンサンブルの大きな特徴です。
特別な環境がなくても、アンサンブルに触れる機会は身近にあります。
音楽教室の発表会。多くの教室で、ソロに加えて連弾や合奏のプログラムが組まれています。先生との連弾であれば、早い時期から経験できます。発表会そのものについては、音楽教室の発表会で得られることもご覧ください。
学校の授業と行事。合唱コンクールは、多くの方が経験されるアンサンブルです。小学校音楽科には「音楽づくり」の領域があり、他の人と音を組み合わせたり、表現について話し合ったりする活動も行われます。
地域の団体。合唱団やアンサンブルサークルには、子どもから大人まで参加できるものがあります。
室内楽・アマチュアオーケストラ。ある程度の技術を備えてから、本格的な合奏へ進む道もあります。大人になってから始める方も少なくありません。
いずれの場合も、楽器の種類は問いません。声もアンサンブルの楽器のひとつです。
ソロが完璧に弾けるようになってから、と考える必要はありません。
先生との連弾などであれば、短いパートを合図に合わせて演奏できる段階から始められます。室内楽や合奏では、それぞれのパートを安定して演奏できることが必要になるため、編成や作品によって準備の目安は異なります。
むしろ、アンサンブルの経験がソロの演奏に影響することもあります。他の音を聴きながら弾く機会を重ねると、ひとりで弾くときにも自分の音を客観的に聴きやすくなるためです。
聴く力そのものを扱う訓練としては、ソルフェージュがあります。音を聴き分け、書き取り、歌う訓練は、アンサンブルで必要になる力とつながっています。
年齢だけで一律に決まるものではありません。先生との歌遊びや簡単な連弾であれば、楽器を始めて間もない時期から経験できます。必要な集中時間や演奏内容は、年齢と発達段階に応じて調整します。
順番として決まっているわけではありません。並行して経験することで、他の音を聴きながら弾く機会が増え、ソロの演奏に影響することもあります。
アンサンブルに参加するだけで、協調性という性格が自動的に身につくとはいえません。一方で、他の人の音を聴く、自分の役割を考える、意見の違いを話し合う、全体のために演奏を調整するといった経験を重ねる機会にはなります。どのような経験になるかは、活動の内容や指導の方法、参加期間などによっても変わります。
できます。ピアノの連弾、弦楽器の重奏、管楽器のアンサンブル、ギターアンサンブル、合唱など、編成はさまざまです。チェロによるアンサンブルのように、楽器ごとの魅力もあります。
アンサンブルでは、他の奏者を聴きながら音を調整し、時間と呼吸を共有し、言葉を使わずに合図を交わし、全体のなかでの自分の役割を捉える——これらが同時に働きます。練習の過程では、感じ方の違いに気づき、対話しながらひとつの音楽をつくり上げていきます。
協調性とは、自分を消すことではありません。全体のなかでの自分の役割を理解したうえで、必要な場面では前に出て、支える場面では退くことです。合わせることと、埋もれることは違います。
言葉を使わずに他者と関われる場は、そう多くありません。音でやりとりする時間そのものが、音楽を続ける理由になることもあります。
小林音楽教室では、ピアノ、ヴァイオリン、チェロ、フルート、声楽、ソルフェージュなどの体験レッスンを承っています。
当教室主宰の著書「音楽教育のススメ(幻冬舎)」