「明るい性格ならピアノ、几帳面ならヴァイオリン」——楽器選びで、そのような話を聞いたことがあるかもしれません。ただ、実際のレッスンの場では、同じ楽器をまったく違うタイプの方が長く続けておられます。
この記事では、性格の類型ではなく、どのような音に惹かれるか、どのように学びたいか、どのような環境なら続けられるかという三つの段階から、分野を選ぶ考え方を整理します。取り上げるのは、ピアノ・声楽・ヴァイオリン・チェロ・フルート・クラシックギターの6つの演奏分野と、演奏するだけでなく音楽をつくりたい方に向けた作曲です。
結論から言えば、固定的な性格の類型で向き不向きが決まることはありません。「几帳面な人に向く」「目立つのが好きな人に向く」といった説明を見かけることがありますが、根拠のあるものではありません。性別や、明るい・控えめといった類型で決まるものでもありません。
一方で、自分がどのような時間を心地よいと感じるかは、選ぶときの手がかりになります。一人で静かに練習する時間が好きなのか、誰かと合わせて音を重ねるのが楽しいのか。細かな音色の変化を試すのが好きなのか、身体全体を使う表現に惹かれるのか。これは適性の話ではなく、好みの話です。
そして、最初の選択を固定しすぎる必要もありません。学ぶうちに関心が移ることはよくありますし、複数の分野を並行して学ぶ方もおられます。
最初の手がかりは、自分がどのような音を美しいと感じるかです。好きな曲や演奏家がいるなら、その音を出しているのが何かを確かめてみてください。自分の身体で歌いたいのか、楽器を通して音をつくりたいのか。あるいは演奏するより、音楽そのものを組み立てることに関心があるのか。ここが定まると、選択肢はかなり絞られます。
次に、学びの過程で何を扱いたいかを考えます。鍵盤のように音の高さが決まっている楽器を扱うのか、自分で音程をつくる楽器を扱うのか。単旋律を深く磨いていくのか、和音や複数の声部を同時に扱うのか。呼吸を使うのか、手指の細かな動きを使うのか。独奏に集中したいのか、伴奏や室内楽、合奏に加わりたいのか。
これらはどれが優れているという話ではなく、どのような時間を過ごしたいかという違いです。
最後に、現実的な条件を確かめます。自宅で出せる音量はどのくらいか。楽器を置く場所があるか、持ち運ぶ必要があるか。調弦や組み立て、日常の手入れにどれくらい時間を割けるか。楽器を購入するのか、レンタルから始めるのか。通える範囲に学べる場があるか。
三つの段階のうち、最後で行き詰まることは少なくありません。惹かれた分野が住環境と合わない場合でも、消音の方法や練習場所を確保する手立てがあることもあるため、あきらめる前に相談してみてください。
以下は分野ごとの特徴です。難易度の順位ではなく、扱うものの違いとしてご覧ください。
| 分野 | 音のつくり方 | 初期に学ぶ主な基礎 | 楽しめる演奏形態 |
|---|---|---|---|
| ピアノ | 鍵盤を押し、ハンマーが弦を打つ | 姿勢、読譜、左右の手の協調 | 独奏、伴奏、室内楽、連弾 |
| 声楽 | 呼気で声帯を振動させ、身体で響かせる | 呼吸、発声、自分の声を聴くこと | 独唱、重唱、合唱 |
| ヴァイオリン | 弦に弓を当てて振動させる | 構え、弓の扱い、音程 | 独奏、室内楽、オーケストラ |
| チェロ | 弦に弓を当てて振動させる | 姿勢、弓の扱い、音程 | 独奏、室内楽、オーケストラ |
| フルート | 歌口に息を当てて空気を振動させる | 組み立て、息の向き、音の立ち上げ | 独奏、室内楽、吹奏楽やオーケストラ |
| クラシックギター | 指で弦を弾く | 姿勢、左右の手の使い方、調弦 | 独奏、伴奏、重奏 |
| 分野 | 身体との関わり | 練習環境 | 準備と持ち運び |
|---|---|---|---|
| ピアノ | 両手と両足を使い分ける | 音量は大きめ。消音機能付きや電子ピアノという選択肢もある | 据え置き。調律が必要 |
| 声楽 | 身体そのものが楽器になる | 声を出せる場所と時間が必要 | 楽器の準備は不要 |
| ヴァイオリン | 左右の手の役割が大きく異なる | 音量は中〜大 | 比較的小型。弓や肩当てを含めて扱い、手入れが必要 |
| チェロ | 上半身全体で楽器を支える | 音量は中〜大 | 大きく、移動と保管の場所を要する |
| フルート | 呼吸と手指を同時に使う | 音量は中程度 | 分解して収納できる。組み立てと手入れが必要 |
| クラシックギター | 左右の手で押さえ、弾く | 音量は抑えめ。時間帯への配慮は必要 | 持ち運びやすい。毎回の調弦が必要 |
鍵盤を押せば一定の高さの音が出るため、音を出すこと自体には入りやすい分野です。一方で、両手で異なる声部を扱い、ペダルも含めて音楽を組み立てていくため、読譜の負担は他の分野より大きくなります。独奏の作品が豊富にあり、伴奏や室内楽でも中心的な役割を担います。
楽器そのものの違いについては、ピアノの種類と特徴で解説しています。
楽器を購入したり持ち運んだりする必要はありませんが、身体そのものが楽器になります。呼吸、発声、言葉の扱い、音程を継続して整えていく分野です。練習には声を出せる場所と時間が必要で、音量への配慮も欠かせません。多くの場合は伴奏と合わせて演奏し、重唱や合唱の機会もあります。
弦に弓を当てて音を出します。始めたばかりの時期は、構え方、弓の扱い、そして自分で音程をつくることを同時に覚えていきます。単旋律を扱うため音の並びは追いやすい一方、音程を自分で決める点が鍵盤楽器と大きく異なります。独奏、室内楽、オーケストラのいずれでも中心的に用いられます。
本体は比較的小型ですが、弓や肩当てを含めてケースで扱い、弦や弓の手入れも必要です。弦楽器どうしの違いは弦楽器4種類の違いをご覧ください。
ヴァイオリンと同じく弦を弓で鳴らしますが、床に立てて構えるため姿勢のつくり方が異なります。音域が人の声に近く、低音から中音域の響きに惹かれて選ぶ方もおられます。独奏、室内楽、オーケストラのいずれでも用いられます。
楽器が大きいため、移動時の負担と保管場所の確保は、始める前に考えておきたい点です。
息を吹き込んで音を出す木管楽器です。最初に取り組むのは、息の向きと口の形を整えて音を立ち上げることで、ここに時間がかかる方もいます。分解してケースに収められるため持ち運びやすい一方、演奏のたびに組み立てと手入れが必要です。独奏、室内楽のほか、吹奏楽やオーケストラでも用いられます。
指で弦を弾いて音を出します。和音と旋律を一人で同時に扱えるため、独奏で音楽が完結しやすい分野です。始めのうちは、姿勢、左右の手の使い方、そして毎回の調弦を覚えます。音量は他の分野より抑えめで、集合住宅でも比較的扱いやすい場合がありますが、夜間などの配慮は必要です。爪を使う奏法が一般的ですが、奏法や指導方針によって異なります。
演奏そのものより、音楽を組み立てることに関心がある方には、作曲という選択肢があります。
学ぶ内容は演奏分野とは性質が異なり、和声法、対位法、楽曲分析などを通して、音がどのように組み合わさって音楽になるのかを扱います。実際には、鍵盤で響きを確かめたり、楽譜に書き起こしたり、記譜ソフトを使ったりしながら進めます。楽器の経験がなくても始められますが、音を確かめる手段があると理解が進みやすくなります。
演奏と作曲は、どちらかを選ばなければならないものでもありません。楽器を学びながら作曲に取り組む方もおられます。
比較表を眺めても決めきれないことは、よくあります。そのときは、次のことを試してみてください。
とくに、実際に音を出してみることは、文章を読むより多くのことを教えてくれます。手に持ったときの重さ、息を入れたときの手応え、自分の声が響いたときの感覚——こうしたものは、比較表には書けません。
そして、最初の選択を決定的なものと考えなくて構いません。学ぶうちに関心が変わることも、別の分野を加えることもあります。
固定的な性格の類型で決まる向き不向きはありません。ただし、どのような音に惹かれるか、どのような練習の時間を心地よいと感じるかは、選ぶときの手がかりになります。また、自宅で出せる音量や楽器を置く場所といった条件は、続けられるかどうかに実際に影響します。
ここで挙げた6つの演奏分野と作曲は、いずれも大人から始めることができます。年齢によって入り口が閉ざされる分野はありません。読譜や音楽の理解については、大人のほうが早く進む場面もあります。
音量が比較的抑えめなクラシックギターや、消音機能を備えたピアノ、電子ピアノなどが選択肢になります。ただし建物の構造や時間帯によって条件は変わるため、事前の確認をおすすめします。練習室を借りるという方法もあります。
構いません。学ぶうちに関心が移ることはよくあります。ある分野で身につけた読譜やリズムの感覚は、別の分野でも土台として働きます。複数の分野を並行して学ぶ方もおられます。
楽器や分野の選び方に、性格による正解はありません。手がかりになるのは、どのような音に惹かれるか、どのような学び方を経験したいか、どのような環境なら続けられるかという三つです。
この記事で挙げた6つの演奏分野と作曲は、どれが優れているというものではなく、扱うものと、そこで過ごす時間が違うだけです。比較表で見当をつけたら、あとは実際に音を聴き、触れてみてください。文章では伝わらないことが、そこにあります。
当教室主宰の著書「音楽教育のススメ(幻冬舎)」