
ピアノは、鍵盤を押すとハンマーが弦を打ち、その振動が響板に伝わって音になる楽器です。楽器を選ぶという観点では、一般にグランドピアノ・アップライトピアノ・電子ピアノの3種類に整理されます。ただし分類の目的によって分け方は変わり、近年はアコースティックと電子の技術を組み合わせたピアノもあります。
この記事では、ピアノの基本的な仕組みを確かめたうえで、種類ごとの特徴と違いを一覧で比較します。
鍵盤を押すと、その動きがアクションと呼ばれる機構を経てハンマーに伝わり、ハンマーが弦を打ちます。弦の振動は駒を通じて響板に伝わり、空気を震わせて音になります。打鍵をやめるとダンパーが弦に触れ、音が止まります。
押さえておきたいのは、ピアノの弦ははじくのではなく、打って鳴らすという点です。同じ鍵盤楽器でもチェンバロは弦をはじくため、打鍵の強さで音量を大きく変えられません。ピアノが強弱を表現できるのは、ハンマーが弦を打つ速さを演奏者が加減できるからです。
ピアノは、一般的な楽器の分け方では鍵盤楽器に含まれます。ただし、内部ではハンマーが弦を打って音を出すため、発音の仕組みからは打弦楽器と説明されます。さらに、楽器を発音体で分類する考え方では、弦の振動によって音を出す弦鳴楽器の仲間として扱われます。
一つの答えに定まらないのは、分類の目的がそれぞれ異なるためです。弦を用いる楽器の分類については、弦楽器4種類の違いもあわせてご覧ください。
現代のピアノは88鍵が標準で、最も低いラ(A0)から最も高いド(C8)までの音域を持ちます。この鍵盤数は19世紀を通じて広げられ、1890年代頃までに定着したとされます。88という数字は一つの理由で決まったのではなく、作曲や演奏上の需要、聴き取りやすさ、楽器の構造上の制約、製造上の合理性が重なった結果と考えられています。
一方で、より広い音域を持つピアノもあります。ベーゼンドルファーの290インペリアルは97鍵、225は92鍵で、いずれも低音側が拡張されています。追加された低音鍵は一部の作品で実際に演奏されるほか、ほかの音を弾いたときに共鳴し、響きにも関わります。88鍵は広く共有された標準ですが、すべてのピアノを縛る決まりではありません。
ピアノの歩み:ピアノは1700年頃、イタリアのバルトロメオ・クリストフォリが考案したとされます。初期の楽器はすでに弦を水平に張る形で、現在のグランドピアノにつながる姿でした。メトロポリタン美術館が所蔵する1720年製の楽器は、現存する最古のピアノとして知られています。19世紀には、弦を垂直に張るアップライト型が発達しました。
ピアノの種類は、次の三つの層に分けて考えると整理しやすくなります。
このうち、楽器を選ぶ場面でよく使われるのが、最初の二つを合わせたグランド・アップライト・電子ピアノの3区分です。三つ目の層は種類というより「組み合わせ方」にあたるため、あとの章で説明します。
| 種類 | 音の仕組み | タッチ・表現 | 向いている環境・重視したい点 |
|---|---|---|---|
| グランドピアノ | 弦を水平に張り、ハンマーが下から打つ | 連打や微妙な強弱に対応しやすい | 天井が高く広さのある空間。響きと表現の幅を重視する場合 |
| アップライトピアノ | 弦を垂直に張り、ハンマーが横から打つ | アコースティックの響きを保ち、機構は縦型に合わせた設計 | 設置スペースが限られる場合。家庭でアコースティックの音を保ちたい場合 |
| 電子ピアノ | 記録した音や計算による音をスピーカーから出す | 製品によって鍵盤機構や表現力に幅がある | 音量調整やヘッドホン使用が必要な環境。調律や移動の負担を抑えたい場合 |
| 種類 | 高さ・奥行きの目安 | 重量の目安 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| グランドピアノ | 奥行き約150〜290cm | 約290〜415kg(大型は約485kg) | 奥行きに加え、演奏や調律のための余白が必要 |
| アップライトピアノ | 高さ約113〜134cm | 約192〜284kg | 背面を壁からわずかに離して設置する |
| 電子ピアノ | 製品による幅が大きい | 約30〜80kg程度が多い | 電源とスピーカーの向きに配慮する |
寸法や重量は現行製品の代表的な例で、メーカーやモデルによって異なります。
グランドピアノは、弦とフレーム、響板を地面と水平に配置しています。ハンマーは弦を下から打ち上げ、打ったあとは自重で元の位置へ戻ります。そのため鍵盤が完全に戻りきる前でも次の打鍵に移りやすく、速い連打に対応しやすくなります。専門的には、この仕組みをレペティション機構(ダブルエスケープメント)と呼びます。
奥行きが長いほど低音の弦を長く張れるため、響きにゆとりが生まれます。大きさはいくつかの段階に分けて呼ばれます。
| 大きさの目安 | 奥行きの代表的な範囲 | 響きと設置の傾向 | 主な設置環境 |
|---|---|---|---|
| 小型・コンパクト(1型・2型と呼ばれることがある) | 約150〜180cm | 限られた空間にも置きやすい | 家庭・小規模な教室 |
| 中型(3型・5型と呼ばれることがある) | 約180〜210cm | 設置性と響きのバランスがとれる | 家庭・教室・スタジオ |
| 大型・セミコンサート級(6型・7型と呼ばれることがある) | 約210〜250cm | 低音や響きにゆとりがある | 音楽室・スタジオ・小中規模のホール |
| フルコンサート級 | 約270〜290cm | 広い空間での響きと音の届き方を重視 | コンサートホール |
「◯型」という数字による呼び方は、販売や調律の現場で用いられる慣習で、公的に定められた区分ではありません。メーカーによって対応する寸法は異なり、すべての数字が用意されているわけでもありません。
屋根の開き方で響きを調整でき、演奏者の視界も遮られません。打鍵から音が立ち上がり、減衰していく過程を聴き分けながら強弱や間合いを整える——表現の余地が大きい楽器です。
アップライトピアノは、弦とフレーム、響板を地面に対して垂直に配置しています。ハンマーは弦を横から打つ形になり、打ったあと重力だけでは元の位置に戻りません。そのため主にスプリングの力を利用してハンマーを戻す仕組みになっています。グランドピアノとタッチの感触や連打のしやすさが異なるのは、この構造の違いによるものです。
高さによって弦の長さと響板の面積が変わり、高さのある機種ほど低音に余裕が出やすくなります。現行製品では、およそ113cmから134cm程度までの幅があります。高さは音にも関わる要素だと知っておくと、選択の基準がはっきりします。
縦型の形状は設置面積が小さく、壁に沿って置けるため、限られた空間にも収まりやすいという利点があります。設置の際は、響板の裏側にあたる背面を壁からわずかに離すと音がこもりにくくなります。床の強度や、直射日光・冷暖房の風が当たらない位置かどうかも確認しておきたい点です。
電子ピアノは、鍵盤を押すとその情報が電気信号として処理され、スピーカーから音が出ます。音のつくり方には、あらかじめ録音した音を再生する方式(サンプリング)と、音の振る舞いを計算によって再現する方式(モデリング)があり、両者を組み合わせた製品もあります。
鍵盤がある楽器がすべてピアノとは限りません。シンセサイザーや電子キーボード、電子オルガンは、いずれも鍵盤を備えていますが、音のつくり方や想定される用途がピアノとは異なります。シンセサイザーは音そのものを作り出すことを目的とした楽器で、鍵盤数も88鍵とは限りません。
製品の呼称や分類はメーカーによって異なりますが、アコースティックと電子の技術を組み合わせたピアノは、仕組みから見ると大きく二つの方向があります。これらは「第4の種類」というより、これまで見てきた構造に技術を組み合わせたものと考えると理解しやすくなります。
アコースティックピアノ本体はそのままに、ハンマーが弦を打つ直前で止める機構を設け、電子音をヘッドホンで聴けるようにしたものが消音機能付きピアノです。弦を鳴らす演奏と、音を外に出さない演奏を切り替えて使えます。響板そのものを振動させて電子音を鳴らす製品もあります。
もう一つは、アコースティックピアノと同等の鍵盤機構を用いながら、発音は電子音源で行うタイプです。弦や響板を持たないため分類上は電子楽器にあたりますが、打鍵の感触はアコースティックに近づけられています。ハイブリッドピアノと呼ばれることが多いのは、主にこの方向の製品です。
これらは、演奏する時間帯や音量に制約がある環境で検討されることの多い選択肢です。練習環境の整え方については、楽器の練習場所もあわせてご覧ください。
ピアノは、鍵盤を押せば初めての方でも音を出しやすい楽器です。ただし、音色を聴き分け、強弱や間合いを整え、一つの音楽として表現することには、長い学びがあります。楽器を選ぶときも、この二つを分けて考えると判断しやすくなります。
確認したいのは、目的(どこまで学びたいか)、住環境(音量や時間帯の制約、設置スペース、床の強度)、タッチ(打鍵の感触が学びを支えるものか)、音量の四点です。電子ピアノは音量調整やヘッドホンの使用ができるため、住環境の制約が大きい場合には有効な選択肢になります。
そのうえで、アコースティックピアノならではの響きや、打鍵がハンマーを介して弦と響板の振動につながる感覚を体験することにも価値があります。自分の指の動きが音の変化として返ってくる経験は、音を聴き分ける耳を育てる土台になります。当教室主宰の著書『音楽教育のススメ 改訂版』でも、自分の出した音を聴くことの大切さが繰り返し述べられています。自宅では電子ピアノ、レッスンでアコースティックピアノという組み合わせも、無理のない方法の一つです。
始める時期に迷いがある場合は子どもにピアノは何歳から、大人から始める場合は大人がピアノを習うメリットもご参考になります。複数の楽器に触れて比べたい場合は、ピアノ教室の選び方で体験レッスンの活用法をご確認ください。
楽器を選ぶ観点では、グランドピアノ・アップライトピアノ・電子ピアノの3種類に整理されるのが一般的です。分類の目的によって分け方は変わり、これらに消音機能や電子音源を組み合わせたピアノもあります。
一般的な楽器の分け方では鍵盤楽器に含まれます。発音の仕組みから見ると、ハンマーが弦を打つため打弦楽器と説明され、発音体で分類する考え方では弦鳴楽器の仲間として扱われます。分類の目的が異なるため、一つの答えには定まりません。
弦と響板の配置です。グランドは水平、アップライトは垂直に配置され、この違いからハンマーの戻り方が変わります。グランドは自重で戻るため速い連打に対応しやすく、アップライトは主にスプリングの力で戻します。設置面積と響きの傾向にも構造の違いが表れます。
できます。音量の調整やヘッドホンの使用ができるため、住環境に制約がある場合にはむしろ適しています。選ぶ際は、鍵盤機構やペダルの構造など、打鍵の感触に関わる部分を確認しておくとよいでしょう。アコースティックピアノに触れる機会を持てると、響きの違いを聴き分ける経験が加わります。
ピアノは、ハンマーが弦を打って音を出す鍵盤楽器です。楽器を選ぶ場面ではグランド・アップライト・電子ピアノの3種類に整理でき、さらに消音機能や電子音源を組み合わせたタイプもあります。88鍵という標準にも、より広い音域を持つ例外がありました。
どの種類にもそれぞれの成り立ちと適した環境があり、優劣で並ぶものではありません。目的と住環境を確かめたうえで、実際に触れて音を聴き比べてみることが、確かな選び方につながります。

当教室主宰の著書「音楽教育のススメ(幻冬舎)」