「サビの高い音が出ない」「高音になると喉が締まる」——声楽・ボイストレーニングのレッスンでも、こうしたご相談をいただきます。高い声は、力を入れて押し出すものではなく、声の高さが決まる仕組みを理解し、呼吸・姿勢・発声を協調させることで無理なく引き出していくものだと、声楽の指導では考えられています。
この記事では、高い声が出る仕組み、「地声で高い声」や「声帯を鍛える」といった言葉の中身、自宅でできる発声トレーニング、そして練習を続けてはいけないサインまでを順に整理します。
声の高さは、主に喉にある声帯が1秒間に何回振動するかで決まります。公益社団法人銀鈴会の医学解説によれば、振動数は振動するものの長さ・質量・緊張度で決まり、人は声帯の厚みや緊張度を筋肉の働きで変えることで、高い声から低い声までを調節しています。高音では、喉頭の筋肉が声帯の張りや厚み、有効に振動する部分などを協調して調節しています。
声帯は弦楽器の弦にたとえられることがあります。日本気管食道科学会も声帯を弦にたとえて説明していますが、実際の声帯は柔らかな組織で、単純な弦とは異なる仕組みで振動しています。弦のたとえは、あくまで理解の助けとして受け取ってください。
ここで起きやすいのが、高い音になるほど喉に力を入れてしまうことです。喉まわりの余計な緊張は声帯の自由な振動を妨げ、声は細く、詰まった響きになります。高い声の練習で最初に取り組むのは、音を上げることより、力みを外すことです。
あわせて、練習を始める前に、いま無理なく出せる音の範囲(声域)を把握しておきます。声域には個人差があり、声域と声種の関係は声域に基づく6つの声種で解説しています。当教室の声楽レッスンでも、選曲は無理のない音域から始めます。いま出る音を安定させ、その少し上を丁寧に足していく順序は、自宅で練習する場合も変わりません。
一般には、話し声に近い感覚の声を「地声」、軽い高音側の声を「裏声」と呼ぶことがあります。声楽では胸声・頭声・ファルセットなどの声区の用語が使われますが、それぞれが何を指すかは指導法によって異なります。音域を上へ移動していくと、声の出し方が変化しやすい領域があり、声楽ではこれを換声域(パッサッジョ)などと呼んで扱います。
「地声で高い声を出したい」という希望の背景には、この領域で声が裏返る、喉が締まるといった経験があります。ここで避けたいのは、高い音を出すために喉を強く締めたり、大きな力で地声を押し上げようとしたりすることです。日本気管食道科学会は、声帯結節の原因を「長期的に無理な発声」と説明しています。問題は地声という声の種類そのものではなく、過剰な力で声を出そうとすることにあります。
「声帯を鍛える」という言葉は検索でも見かけますが、高音の発声は、声帯を単純に筋力増強することで説明できるものではありません。声帯の振動状態を調節する喉頭の筋肉の協調に加えて、呼気の使い方や、喉から口までの空間(声道)の調整も関係しています。
したがって「声帯を強く鍛える」というより、無理な力を加えずに発声全体を協調させる、と考える方が適切です。強い声を繰り返し出して声帯を酷使する練習は、日本気管食道科学会が挙げる声帯結節の原因に近づきます。「鍛える」を単純な筋力増強と捉えないことが大切です。
いずれも短時間で行い、痛みや違和感が出たら中止することを前提にしています。
足を肩幅程度に開き、背筋を自然に伸ばします。肩を下ろし、顎と舌に余分な力が入っていないことを確かめてから、楽な高さで「あー」と声を出します。高い声の練習は、この力の抜けた状態を出発点にします。
高い音を出そうとして息を強く押し出すと、喉で受け止めることになりやすくなります。息を細く長く吐く練習を数回入れてから声を出し、息の量と声の高さが無理なく釣り合っているかを確かめます。呼吸の練習方法は歌で息が続かない原因は?で解説しています。
口を閉じて「んー」とハミングしたり、唇を軽く震わせるリップトリルをしたりしながら、楽な範囲で音の高さをゆっくり上下します。ハミングでは唇や鼻のあたりに振動を感じる人もいます。この感覚には個人差がありますが、軽い発声で音の高さを動かし、喉に過度な力が入っていないかを確かめる方法として使えます。こうした口や唇を半ば閉じた状態での発声は、音声科学の研究(Titze, 2006)で、声帯への負担を抑えながら発声を整える技法として位置づけられています。
「あ」や「う」など出しやすい母音を一つ選び、無理のない範囲で音の高さをゆっくり上下します。高い音になるほど口の形を固定しようとせず、喉に力が入らない範囲で行います。上りきらないところで止め、また下りてくることを数回繰り返します。声楽では高音域で母音の響きを調整する技術も扱いますが、その細かな調整は指導者のもとで確認する領域です。
声帯は繊細な器官で、無理な発声を続けると声帯結節や声帯ポリープの原因になるとされています。次のような状態があれば、その日の練習は中止してください。
日本気管食道科学会は、声がれが一か月以上続く場合は耳鼻咽喉科医または気管食道科医に相談するよう勧めています。症状が強い場合はその期間を待たず、長引く声がれを我慢して練習を続けないでください。
また、変声期(声変わり)の時期は、声の高さや声区の調節が一時的に難しくなることが『音声言語医学』誌の解説で示されています。この時期に高い声の練習を無理に続けることは避け、子どもの声については子どものボイストレーニングとはをご覧ください。
裏声と地声のつなぎ方、高音域での母音の調整、声域そのものの拡張は、自分の声の状態を細かく聴き分けながら進める必要があり、自宅での自己流には向きません。当教室の声楽・ボイストレーニングレッスンの案内にもあるとおり、発声練習は、その人に合った方法で行わないと、かえって悪い癖がつく要因になります。
声楽のレッスンでは、講師が生徒の声を聴きながら、姿勢・呼吸・響き・換声域の扱いを一つずつ確認します。自宅練習で「押している」「締まっている」状態は、自分では気づきにくいものです。自宅での練習と並行して、定期的に第三者の耳で確かめることが、高い声を無理なく広げていく確かな道の一つです。低い声については低い声を綺麗に出すにはをご覧ください。
高い声は、声帯の振動数の問題であり、力で押し出すものではありません。声帯を「鍛える」のではなく、喉・呼吸・声道の働きが協調する状態を整えること。自宅では、脱力・無理のない呼気・ハミングやリップトリルでの軽い発声・楽な母音でのゆっくりした上下を、短時間ずつ積み重ねます。換声域の練習や高音域の拡張は、指導者のもとで確認してください。痛みや違和感、続く声がれがあれば中止し、必要に応じて専門医に相談してください。

当教室主宰の著書「音楽教育のススメ(幻冬舎)」