絶対音感とは、基準となる音を聞かなくても、音の高さを音名として識別したり、指定された高さの音を出したりする力です。
音名を素早く捉えられるため、音楽を学ぶ際に役立つ場面があります。一方、移調や、普段と異なる基準ピッチに戸惑う人もいます。
絶対音感は便利な力の一つですが、音楽を学ぶための必須条件ではありません。この記事では、メリットとデメリットの両方を整理し、どのような場合に役立つのか、音楽教育でどのように考えればよいのかを解説します。
絶対音感そのものの定義と、相対音感との違いについては絶対音感と相対音感は何が違う?で詳しく解説しています。
なお、絶対音感の現れ方や精度には個人差があります。「ある・ない」で単純に二分できるものではなく、音域や音色によって識別しやすさが変わる人もいます。
音名を識別できる
基準音を確認しなくても、聴こえた音を音名として識別できます。そのため、音名を答える聴音や、耳で聴いた旋律を楽譜へ書き取る作業では、役立つ場合があります。
音高を音名と結びつけやすい
楽譜上の音名と実際の音高を対応させる作業では、絶対音感が助けになる場合があります。ただし、読譜、初見演奏、暗譜には、それぞれ別の学習が必要です。
基準音のおおよその高さを取れる
チューナーがない場面でも、基準音のおおよその高さを取る際に役立つことがあります。ただし、合奏や楽器の調律では、音叉やチューナー、周囲の楽器との響きを確認する必要があります。
音高のずれに気づきやすい
基準とする音高からのずれに気づきやすい場合があります。一方、合奏では固定された音名だけでなく、周囲の音との関係を聴いて調整する相対的な聴き方も必要です。
| 絶対音感と比較的直接関係すること | 絶対音感だけでは保証されないこと |
|---|---|
| 基準音なしに音名を識別する | 歌唱力が高い |
| 指定された高さの音を出す | 音楽表現が豊かである |
| 聴音で音名を取る作業が速くなる場合がある | 初見演奏や暗譜が得意である |
| 基準となるピッチとの差に気づく場合がある | 集中力や記憶力が優れている |
| 耳で聴いた音を音名へ変換しやすい | 言語を早く習得できる |
| — | 音楽家として成功する |
絶対音感は「音高を音名として識別する力」であり、音楽に関わるあらゆる能力を保証するものではありません。
原調の音高と音名の結びつきが強い場合、曲全体を別の高さへ移すと、旋律の関係よりも「元とは違う音名」が先に意識されることがあります。そのため、移調した曲を歌う・演奏する際に、切り替えに時間がかかる人もいます。
ただし、絶対音感があれば必ず移調が苦手になるわけではありません。相対音感や移動ドによる練習を併用することで、両方の聴き方を使い分けられる人もいます。
現代とは異なる基準ピッチで演奏される古楽や、通常より高い・低い調律を聴いた際に、普段覚えている音名との差を強く感じる人がいます。調律法や演奏習慣の違いを意識しすぎる場合もあります。
これも絶対音感の精度や経験によって異なり、すべての人に当てはまるものではありません。
音名を識別できても、リズム、和声、フレーズ、演奏技術、作品理解、音楽表現が自動的に身につくわけではありません。
この和音はどこへ向かうのか。この旋律はどんな形をしているのか。作品をどう解釈するか——これらは、絶対音感とは別の学びによって育ちます。
絶対音感は、音楽を学ぶための必須条件ではありません。
演奏、作曲、指導には、読譜、リズム、発声・奏法、和声、楽曲理解、表現など、複数の力が必要です。絶対音感は、そのうち音高を認識する一つの方法です。
音楽では、音名そのものだけでなく、音と音の距離、和音の働き、調性の流れを聴き取ることが重要になります。こうした相対的な関係を捉える力は、移調、合奏、和声理解などを支えます。
絶対音感と相対音感は、どちらか一方を選ぶものではありません。絶対音感を持つ人も、相対的な聴き方を学ぶことで、音楽をより柔軟に捉えやすくなります。
相対音感については、相対音感とは?絶対音感との違いと鍛え方で解説しています。
「音感がいい」という言葉は、絶対音感があることと同じ意味ではありません。
音高に関する「聴く力」には、次のようなものがあります。
| 聴く力 | 内容 |
|---|---|
| 絶対音高の認識 | 基準音なしに、音の高さを音名と結びつける |
| 相対音感 | 音と音の距離や関係を捉える |
| 音程の調整 | 周囲の音とのずれやうなりを聴き取る |
| 和声を聴く力 | 和音の構成や進行を聴き取る |
| 音高の記憶 | 聴いた音や旋律の高さを保持する |
さらに、広い意味で「耳がよい」と表現するときには、リズム、音色、音量のバランス、フレーズを聴き分ける力まで含む場合があります。
したがって、絶対音感があることと、音楽全体をよく聴けることは同義ではありません。「音感がいい」という言葉は、文脈によって複数の聴取能力を指します。
絶対音感は、早い時期からの音楽経験と関連することが知られています。ただし、「3歳までなら身につく」「一定の年齢を過ぎれば絶対に身につかない」という一律の境界が確立しているわけではありません。
成人の訓練によって、基準音なしの音高判断が向上したという研究もあります。ただし、それが幼少期から形成された絶対音感と同じ仕組み・安定性を持つかについては、研究が続いています。
小林洋子ほか『音楽教育のススメ 改訂版』(幻冬舎)でも、「絶対音感は3歳までが勝負」というイメージから、音楽教育を早く始めなければならないと焦る必要はないと述べています。
音楽を学び始める価値は、絶対音感を獲得できるかどうかだけで決まるものではありません。
当教室では絶対音感クラスをご案内していますが、受講が適しているかどうかは、年齢、目的、現在の学習状況によって異なります。すべてのお子さまに一律に必要なものではありません。
絶対音感の獲得だけを目的に焦るのではなく、音楽への関心や、聴く・歌う・演奏する経験を継続していくことを大切にしています。
音楽の学びを支えるのは、音と音の関係を聴き取る力です。そして、この力は年齢を問わず伸ばしていけます。
これらを体系的に学ぶのが、ソルフェージュです。楽譜を読み、聴き取り、歌う——音楽の基礎となる力を、総合的に育てます。ソルフェージュのレッスンでは、こうした力を段階的に身につけていきます。
絶対音感がなくても、音楽を深く理解し、豊かに表現することはできます。
調査対象や判定方法によって数値が大きく異なるため、確定した割合は示せません。絶対音感には精度や現れ方の幅があり、「ある・ない」をどこで分けるかも研究によって異なります。
必ずしもそうとは限りません。歌唱力は、音程だけでなく、リズム、発声、言葉の扱い、音楽表現などが組み合わさって成り立ちます。音名が識別できることと、歌唱の技術は別のものです。
音名を素早く識別する必要がある場面では役立つことがあります。ただし、演奏、作曲、編曲、調律、指導などの仕事には、絶対音感以外の知識・技術・経験も必要です。
幼少期からの音楽経験と関連が強いとされていますが、成人でも訓練によって基準音なしの音高判断が向上したという研究があります。ただし、幼少期から形成された絶対音感と同じ性質・安定性を持つかについては、まだ議論があります。
絶対音感の獲得にかかわらず、音程、和声、リズムなどを聴き取る力は、大人からでも練習できます。
単独の音を聴いて音名を答える課題などがあります。ただし、音色、音域、許容誤差、採点方法によって結果が変わるため、一度の簡易テストだけで能力を断定することはできません。
絶対音感には、基準音なしに音名を識別できるというメリットがあります。一方で、移調した曲に戸惑う、異なる基準ピッチを強く意識するなど、不便を感じる場面もあります。
そして、音名が分かることと、音楽を理解し表現することは別です。絶対音感は、音楽に関わる力の一つにすぎません。
音楽を学ぶうえで大切なのは、音と音の関係を聴き取る力です。それは年齢を問わず伸ばしていけますし、絶対音感がなくても、音楽を深く理解し、豊かに表現することはできます。
絶対音感を身につけられるかどうかで、焦る必要はありません。音楽を楽しみ、学び続けること——そのほうが、はるかに大切です。
当教室主宰の著書「音楽教育のススメ(幻冬舎)」