中級の課題——セーハ、スラー、音色と声部のバランス——が身についてくると、次の段階が見えてきます。
上級で取り組むのは、次の5つです。
この記事では、この5つを順に解説します。中級の課題はクラシックギター中級者の練習方法で扱っています。
上級者に明確な定義はありません。ただ、中級との違いを考える手がかりはあります。
中級は、「どう弾くかを選べる」段階でした。弾く位置を変えて音色を選び、声部のバランスを整え、フレーズの方向をつくる。その選択肢を手に入れる時期です。
上級では、どのように弾くかを選ぶだけでなく、その選択を作品の様式や構造と結びつけて考えることが重要になります。
すべてを言葉にする必要はありません。感覚的に、身体的に形づくられる解釈もあります。それでも、音色、テンポ、声部のバランスを選んだ理由が自分のなかで整理されていると、演奏全体に一貫性が生まれます。
以下の技法は、すべての上級者が等しく必要とするものではありません。取り組んでいる作品に必要かどうかで判断します。
同じ音を素早く反復し、旋律が持続しているように聞かせる技法です。「アルハンブラの思い出」(タレガ)に代表される、クラシックギターを象徴する技法のひとつです。
クラシックギターのトレモロでは、親指(p)で低音を弾き、薬指(a)・中指(m)・人さし指(i)で高音の旋律を反復する形が広く用いられます。
練習では、a・m・i の間隔・音量・音色をそろえ、旋律が途切れずに聞こえることを目指します。親指の低音は、旋律とのバランスを確認し、必要以上に前へ出ないように整えます。低音と旋律は、別の声部です。
練習の観点
速さより、まず粒がそろうことです。短時間でも、音の均一性を保てる範囲で継続して取り組みます。
弦に軽く触れて、倍音だけを響かせる技法です。澄んだ、鐘のような音がします。自然ハーモニクスを先に身につけ、そのうえで人工ハーモニクスへ進むのが自然な順序です。
自然ハーモニクス
開放弦の特定の位置(12・7・5フレット付近)に左手の指を軽く触れさせ、右手で弦を弾いた瞬間に指を離します。押さえるのではなく、触れるのが要点です。
うまく鳴らないときは、触れる位置がフレットの真上からずれていないか、指を離すタイミングが遅すぎないか、触れる圧力が強すぎないかを確認します。
人工ハーモニクス
左手で音を押さえ、その位置から12フレット高い節に右手の人さし指で軽く触れ、薬指などで弦を弾きます。たとえば左手で第2フレットを押さえた場合は、第14フレット付近に触れます。
右手が2つの役割(触れる/弾く)を同時に担うため、右手の形と距離の正確さが問われます。押さえた音に対応するハーモニクスをつくれるため、開放弦以外でも倍音を響かせられます。
ラスゲアドは、右手の複数の指を順に使って弦をかき鳴らす技法の総称です。指を伸ばす方向や戻す方向、使う指の組み合わせには複数の型があります。
フラメンコに由来し、クラシックギターでは、スペイン系の作品や一部の現代作品などで用いられます。すべての上級者に必須の技法ではありません。
一般的な奏法とは右手の使い方が大きく異なります。力任せに行わず、痛みや爪への強い負担を感じた場合は中止してください。取り組む場合は、必要な作品に出会ったときに、指導を受けながら始めることをおすすめします。
上級で問われるのは、楽譜に書かれていないことを読み取る力です。
様式を考える
テンポ標語の解釈は、標語だけで一律に決まるものではありません。作品の時代、舞曲としての性格、拍子、音価、フレーズ、作曲家や作品の慣習をあわせて考えます。同じ Andante でも、作品によって適したテンポも、その中での揺らし方も変わります。
楽器と音楽の歴史的な背景は、クラシックギターの歴史もあわせてご覧ください。
構造を把握する
どこが繰り返しで、どこが対照的な部分か。どこで音楽が展開していくか。和声はどこで区切られ、どの声部が旋律で、どの声部が支えか。構造が見えると、どこへ向かってフレーズをつくるかが決まります。
和音の名前を確認するだけでなく、和声がどこへ向かい、どこで緊張と解決が生まれるかを読み取ります。
版(エディション)を検討する
クラシックギターの楽譜には、複数の版が存在します。版によって、運指、強弱、フレージングなどの編集上の提案が異なることがあります。
運指は、自分の手や演奏意図に合わせて検討できます。「なぜこの版はここをこの指で弾かせるのか」を考えることが、そのまま解釈の訓練になります。
ただし、音高やリズムに版どうしで違いがある場合は、別の問題です。手に合うからという理由だけで変えず、原典や編曲の出典、信頼できる版を確認してください。
上級になっても、あらゆる曲が弾けるわけではありません。どの作品にも難所があります。
繰り返せば越えられる、とは限りません。同じ動きを反復しても、その動きに無理があれば、無理なまま定着します。上級で問われるのは、難所の原因を観察し、それに合う練習方法を自分で設計できるかです。
練習設計の手順
症状と原因は、一致するとは限りません
| 症状 | 考えられる原因 |
|---|---|
| 特定の箇所で音が濁る | 消音の不足、左手の押さえ方、右手の位置、指の準備の遅れ |
| テンポを上げると崩れる | 運指の選択、両手の同期、指の移動距離、余分な力み |
| 音楽の流れが止まる | 声部のバランス、フレーズの設計、呼吸、テンポ設定 |
| 同じ箇所で毎回止まる | 暗譜の不備、指の記憶に頼りすぎ、構造の理解不足 |
上級段階では、「音は並んでいるが、音楽の流れが生まれない」という課題が現れることがあります。これは技術だけでなく、構造の理解や声部のバランスが関係している場合があります。
運指を疑う
難所が越えられないとき、練習量ではなく運指を変えるべき場合があります。楽譜の運指は絶対ではありません。手の大きさも、指の長さも、人によって違います。「弾けないのは練習が足りないからだ」と決めつける前に、別の運指を試してみてください。
基本に戻る
上級者ほど、基礎練習に戻る価値があります。音階、アルペジオ、開放弦での音色の確認。難所の原因が、実は基礎の崩れにあることは珍しくありません。クラシックギター初心者の練習方法で扱った基本は、上級でも土台であり続けます。
暗譜は、演奏の目的や作品によって必須とは限りません。楽譜を見て演奏する場面も多くあります。ただし、暗譜に取り組む場合は、進め方に工夫が要ります。
指の動きの記憶だけに頼った暗譜は、緊張すると崩れます。一度止まると、どこから再開すればよいか分からなくなるためです。
暗譜は、複数の記憶を重ねることで強くなります。
確認の方法として、曲中の複数の区切りから弾き始められるかを試してみてください。また、低音だけ、旋律だけでも曲をたどれるかを確認すると、構造の記憶が働いているかが分かります。
本番への備え
緊張は消えません。消そうとするより、緊張した状態でも弾ける準備をするほうが現実的です。
本番の機会を持つことは、練習室では見えにくい課題を確認するきっかけにもなります。発表の場については、小林音楽教室の定期演奏会でもご紹介しています。
上級では、時代と様式の幅を広げることが、表現の選択肢につながります。
| 時代・領域 | 代表例 |
|---|---|
| ルネサンス | ルイス・デ・ナルバエス、ジョン・ダウランドなどのビウエラ・リュート作品の編曲 |
| バロック | J.S.バッハのリュート作品・無伴奏弦楽作品の編曲、シルヴィウス・レオポルト・ヴァイス |
| 古典派 | フェルナンド・ソル、マウロ・ジュリアーニ、ディオニシオ・アグアド |
| ロマン派 | フランシスコ・タレガ、ヨハン・カスパール・メルツ |
| スペイン・20世紀 | ホアキン・トゥリーナ、ホアキン・ロドリーゴ、マヌエル・デ・ファリャやイサーク・アルベニスの編曲 |
| 中南米・近現代 | アグスティン・バリオス、エイトル・ヴィラ=ロボス、レオ・ブローウェル |
| 現代 | 現代の作曲家・演奏家によるギター作品 |
異なる時代や様式の作品に触れると、音色・フレーズ・リズムの選択肢を広げやすくなります。バロックの明晰な構造、古典派の均整、ロマン派の歌、近現代の色彩。それぞれに向き合うことが、他の様式の理解も深めます。
音を出すこと自体は難しくありません。難しさは、旋律・伴奏・低音を一人で同時に扱い、それぞれを弾き分ける点にあります。上級になるほど、技術そのものより、解釈と練習の設計が問われます。
明確な定義はありません。中級の課題(セーハ、スラー、音色と声部のバランス)が身についており、演奏上の選択を作品の様式や構造と結びつけて考えられることが、一つの目安です。
速さより、a・m・i の3音の粒がそろっているかを確認してください。あわせて、親指で弾く低音が旋律を覆っていないかも確かめます。低音と旋律は別の声部です。録音して、旋律が連続して聞こえるかを聴いてみてください。
練習量を増やす前に、運指を疑ってください。楽譜の運指は絶対ではありません。また、原因が右手にあるのか、左手にあるのか、両手の同期にあるのかを切り分けてください。同じ動きを繰り返しても、その動きに無理があれば、無理なまま定着します。
あります。自分では確認しにくい部分は、上級になっても残ります。むしろ、解釈や様式については、第三者の視点がより重要になる面があります。教室を探す際の基準はクラシックギター教室の選び方をご覧ください。
上級で取り組むのは、作品に応じた発展技法、楽譜を読み解く力、難所の練習設計、暗譜と本番、そしてレパートリーの拡張です。
中級との違いは、「どう弾くかを選ぶ」ことに加えて、その選択を作品の様式や構造と結びつけて考えることにあります。すべてを言葉にする必要はありませんが、選んだ理由が整理されていると、演奏に一貫性が生まれます。
難所は、繰り返せば越えられるとは限りません。観察し、原因を仮定し、切り分け、方法を変え、曲へ戻す。その設計ができるようになることが、上級の練習方法です。

当教室主宰の著書「音楽教育のススメ(幻冬舎)」