
音楽のジャンルとは、音楽を理解しやすくするために、共通点でまとめた分類のことです。生まれた時代や地域、リズムや和音の使い方、演奏される場などをてがかりに、さまざまな呼び名が使われてきました。
ただし、ジャンルの境界ははっきりと固定されているわけではありません。一つの曲がいくつもの分類にまたがることもあり、分け方も目的によって変わります。
この記事では、音楽のジャンルを「どのような見方で分けられるのか」と「代表的なジャンルがどのように育まれてきたのか」という二つの視点から整理します。音楽教育の現場では、ジャンルを優劣で比べるのではなく、その成り立ちや背景を知ることを大切にしています。ジャンルを一つの地図として眺めると、一曲をより深く聴き、表現するための手がかりが見えてくるからです。
「ジャンル」という言葉は、音楽の伝統や様式のまとまりを指すために使われます。これと似た言葉に「形式(フォーム)」があります。形式は、交響曲やソナタ、オペラのように、曲がどのような構成や枠組みでつくられているかを表す言葉です。
たとえば一つの作品に対して、「クラシック」というジャンルと「交響曲」という形式の両方を当てはめることができます。図書館の音楽資料の整理でも、ジャンルと形式は区別され、一つの作品に複数の語を組み合わせて付けられています。
音楽ジャンルには、世界共通の固定された総数はありません。分類の目的や地域、時代によって名称や境界が変わり、一つの音楽が複数のジャンルにまたがることもあります。
そのため、ジャンルは「一つの作品を一つの箱に入れるためのもの」というより、「その作品のいろいろな側面を理解するための目印」と考えると分かりやすくなります。たとえば同じ一曲が、日本で作られた音楽であり、ポピュラー音楽であり、ジャズの影響を受け、映画のために書かれた歌である、ということもあるのです。
主な音楽ジャンルを一覧で整理するときは、次の三つの見方を分けて考えると、混乱が少なくなります。
| 分類する視点 | 何を表すか | 主な例 |
|---|---|---|
| 歴史的・文化的な伝統 | どの地域・文化・歴史を背景とするか | 西洋芸術音楽(クラシック)、日本の伝統音楽、ジャズ、各地域の伝統音楽 |
| 様式・音楽語法 | リズム・和音・音色・演奏の慣習などの特徴 | ロック、ブルース、スウィング、ビバップ、ボサノヴァ |
| 形式・用途・演奏される場 | 何のために、どのような形でつくられるか | 交響曲、オペラ、舞曲、宗教音楽、映画音楽、劇音楽 |
これらの分類は互いに排他的ではありません。一つの作品が、複数の分類に同時に当てはまることもあります。
なお、「日本の音楽」は一つのジャンルというより、雅楽や能楽、箏曲、長唄、民謡、流行歌、歌謡曲、演歌、日本のポップスなどを含む、地域的・歴史的な総称です。ジャズやクラシックと同じ一列の分類として並べると、実態からずれてしまいます。同じように「世界各地の伝統音楽・民俗音楽」も、一つにまとまった様式ではなく、紹介や流通のうえで使われる包括的な呼び方に近いものです。
大切なのは、どの分類が優れているかではなく、それぞれのジャンルがどのような背景から生まれたのかを知ることだと考えています。
「クラシック音楽」という言葉には、少なくとも二つの使い方があります。日常語としてのクラシック音楽は、中世から現代まで続く西洋芸術音楽の伝統を広く指します。一方、音楽史で「古典派」または「古典期」という場合は、主としてハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンらが活動した時代を指します。
西洋芸術音楽の歴史は、大きくいくつかの時代に分けて捉えられます。年代はいずれもおおよその目安です。
| 時代 | おおよその時期 | 主な作曲家 |
|---|---|---|
| 中世 | 5世紀頃〜1400年頃 | (聖歌など教会音楽が中心) |
| ルネサンス | 1400年頃〜1600年頃 | パレストリーナ ほか |
| バロック | 1600年頃〜1750年頃 | ヴィヴァルディ、バッハ、ヘンデル |
| 古典派 | 1750年頃〜1820年頃 | ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン |
| ロマン派 | 1820年頃〜1900年頃 | シューベルト、ショパン、ブラームス |
| 20世紀以降 | 1900年頃〜 | ドビュッシー、ラヴェル、ストラヴィンスキー |
中世には教会で歌われる聖歌などを背景に、単旋律から複数の旋律が重なり合う音楽へと発展したとされます。バロックの時代にはオペラが生まれ、鍵盤楽器も発達しました。古典派の時代には、交響曲やソナタなどの形式が発展し、宮廷や貴族の後援に加えて、公開演奏会や楽譜出版を通じた音楽活動も広がっていきました。
ロマン派の時代には、個人的な表現に加えて、文学や自然、民族意識との結びつき、管弦楽法の発展、演奏会文化の広がりなどが重なり合いました。20世紀以降は、それまでの様式にとらわれない新しい試みが続いています。
こうしたクラシックの合奏体であるオーケストラの成り立ちや編成はオーケストラとは?意味・楽器編成・歴史で、時代を超えて親しまれる作品の一例は第九(交響曲第九番)で詳しく解説しています。
ジャズは、19世紀末から20世紀初頭のアメリカ、特にニューオーリンズを重要な形成地として、アフリカ系アメリカ人の音楽文化を基盤に発展したとされます。ブルースやラグタイムなどの影響を受け、リズムの扱い、演奏者どうしの応答、即興などを重要な特徴としてきました。
即興を重んじる音楽ではありますが、即興をほとんど含まない作品や編曲もあり、即興を含む音楽がすべてジャズになるわけでもありません。その後、スウィングやビバップ、クール・ジャズなど、時代と演奏環境に応じて多様な様式へと展開しました。
日本でも古くから、暮らしのなかに音や歌が息づいてきました。おおまかな流れは次のとおりです。
| 時代 | 主な音楽 |
|---|---|
| 古代 | 日本古来の歌舞・大陸から伝わった音楽の受容 |
| 中世 | 能・狂言 |
| 近世(江戸) | 三味線音楽・箏曲・浄瑠璃・歌舞伎音楽 |
| 近代(明治〜) | 西洋音楽の導入・唱歌 |
| 現代 | 流行歌・歌謡曲・演歌・ポップス |
雅楽には、日本古来の歌舞に加え、5世紀から9世紀頃に中国大陸や朝鮮半島を経由して伝わった音楽・舞が、日本で独自に整理されたものが含まれます。平安時代には、催馬楽や朗詠などの声楽曲も生まれ、宮中を中心に伝承されてきました。
その後、能や狂言は、武家社会や寺社の文化と結びつきながら発展し、後世へと継承されました。江戸時代には、都市文化や劇場文化とともに、三味線を用いた音楽や箏曲、物語を語る浄瑠璃、歌舞伎の音楽などが豊かに育まれます。
明治時代になると、西洋音楽の導入や学校教育、軍楽、唱歌などを通じて、新しい音楽文化が形づくられていきました。『花』や『荒城の月』で知られる瀧廉太郎も、この時代に多くの歌曲やピアノ曲を残しています。大正から昭和前期にかけては、レコードや放送の普及とともに「流行歌」が広まりました。
「歌謡曲」は、特に昭和期の放送やレコード文化と結びついた日本のポピュラーソングを広く指す言葉として使われてきました。ただし、演歌やポップスとの境界は時代によって変わり、明確に一つへ定められるものではありません。こうした呼び名は、時代や受け手によって意味を変えながら、今日の多様な音楽へとつながっています。
ジャンルは、優劣をつけるためのものではなく、音楽の広がりを捉えるための地図のようなものです。そして一つの曲は、しばしば複数のジャンルが重なり合ったところに生まれます。その重なりに目を向けることが、音楽を深く味わう第一歩になります。
ある曲がどの時代に、どのような場で生まれたのかを知ると、その曲の聴こえ方や、演奏するときの表現も変わってきます。書籍『音楽教育のススメ 改訂版』でも、演奏する曲の成り立ちや時代・社会・文化的背景まで理解することが、より豊かな表現につながると述べられています。音楽を読み解く力を育てるうえでは、ソルフェージュのような基礎の学びも助けになります。
音楽ジャンルには、世界共通の固定された総数はありません。分類の目的や地域、時代によって名称や境界が変わり、明確に定まった数はありません。
「歴史的・文化的な伝統」「様式・音楽語法」「形式・用途・演奏される場」という三つの見方で整理すると、全体像がつかみやすくなります。これらは互いに排他的ではなく、一つの作品が複数に当てはまることもあります。
日常語のクラシック音楽は、中世から現代まで続く西洋芸術音楽の伝統を広く指します。一方の「古典派」は、その歴史のなかでハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンらが活動した時代を指す、より狭い言葉です。
歌謡曲は、主に昭和期の放送やレコード文化を通じて広く親しまれた日本のポピュラーソングを指す言葉です。演歌やポップスとの境界は固定されておらず、時代によって使われ方が変化しています。
音楽のジャンルは、一列に並んだ固定された分類ではなく、歴史や文化、様式、形式が重なり合う多層的な地図です。その地図を眺めると、それぞれの音楽がどのような背景から生まれたのかが見えてきます。ジャンルや時代を知ることは、音楽をより深く聴き、表現するための確かな手がかりになります。
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