クラシックギターを独学で始めたいと考えたとき、多くの方が「そもそも独学で弾けるようになるのか」という不安を抱きます。
結論から申し上げると、独学で始めること自体は可能です。教則本や動画は豊富にあり、実際に独学で長く弾き続けている方もいます。
ただし、独学には演奏中に客観的に確認しにくい部分がある、という難しさがあります。「独学は難しい」と言われるのは、この点に理由があります。
この記事では、独学が難しいといわれる理由を4つに分けて整理し、そのうえでメリットとデメリット、独学を続けるための工夫、そしてレッスンを取り入れる判断の目安までを解説します。
なお、楽器そのものの選び方はクラシックギターの選び方で、練習の具体的な進め方はクラシックギター初心者の練習方法で扱っています。
「独学は無理」という言い方は、正確ではありません。ただ、そう言われるだけの理由は確かにあります。主なものは次の4つです。
クラシックギターの音は、右手の角度、爪や指先の使い方、左手の形など、細かな条件によって変わります。これらは演奏中には客観的に確認しにくく、録画を見ても、判断の基準がなければ課題を特定しにくいことがあります。
教則本には「肩や手首の力を抜く」「指先で弦をとらえる」といった表現が並びます。しかし、その「力を抜く」がどの程度なのかは、文字からは分かりません。手の大きさや指の形には個人差があるため、映像を見てそのまま動きをまねようとすると、かえって不自然な動きになることもあります。
上達には、いま身についている技術に対して少しだけ難しい課題に取り組み続けることが役立ちます。しかし、その「少しだけ」の見極めには経験が要ります。難しすぎる曲に手を出して行き詰まる、あるいは易しい曲だけを繰り返して停滞する。独学では、どちらも起こりやすくなります。
適切でないフォームでも、しばらくは音が出ます。そのまま練習を重ねると、その動きが体に定着します。一度定着した動きを修正するには、時間がかかる場合があります。独学の難しさが最も表れるのが、この点です。
ただし、これらは「独学では上達しない」という意味ではありません。何を目指すかによって、独学で十分な場合もあります。好きな曲を自分なりに弾けるようになりたいのか、正確な奏法を身につけて人前で演奏したいのか。目標によって、必要な水準は変わります。
独学には、教室に通う場合とは異なる利点があります。
| メリット | 内容 |
|---|---|
| 費用を抑えやすい | 教室に通うためのレッスン料や交通費を抑えやすくなります |
| すぐ始められる | 教室を探す、体験レッスンを受ける、という段階を踏まずに、楽器が手元に来た日から練習できます |
| 時間が自由 | 練習の時間帯も長さも自分で決められます。仕事や家庭の都合に合わせやすくなります |
| 試行錯誤の機会が多い | 「なぜうまくいかないのか」を自分で考え、練習方法を組み立てる機会が多くなります |
とくに4つ目は、独学の隠れた価値です。回り道をしながら自分で答えを見つけていく過程には、独学ならではの試行錯誤の面白さがあります。独学を選ぶ方の多くは、この過程を楽しんでいます。
一方で、避けにくい難しさもあります。
| デメリット | 内容 |
|---|---|
| 客観的な視点が入りにくい | 演奏を評価するのは自分自身です。「できているか」の判断基準そのものを持っていない段階では、この難しさが大きくなります |
| 選択に迷いやすい | 楽器も教則本も、相談相手がいない場合は選択に迷いやすくなります |
| 練習量の管理が難しい | 短期間に詰め込めば体の負担になり、間隔が空きすぎれば身につきにくくなります。時間の制約がないことは、裏返せば歯止めがないということでもあります |
| 演奏の機会を自分で探す必要がある | アンサンブルや人前での演奏は、技術と音楽性の両方を伸ばす場ですが、独学では機会を自分で探す必要があります |
「結局、独学でどこまで進められるのか」という問いに対して、目安を整理します。できる・できないの線引きではなく、どこを自分で進めやすく、どこで助言が役立ちやすいかという視点で捉えると、独学の設計がしやすくなります。
| 項目 | 独学での取り組み方 |
|---|---|
| 楽器各部の名称・弦の番号 | 教則本や動画で確認しやすい領域です |
| チューニング | チューナーを使って練習しやすい領域です |
| 読譜 | 教材で進められますが、誤読には注意が必要です |
| 構え方 | 録画で確認できますが、講師の確認が役立ちます |
| 音色・脱力 | 自分だけでは判断しにくい場合があります |
| 爪や指先の使い方 | 手の形に個人差があり、助言が役立ちます |
| 選曲と進度 | 教材を軸にできますが、行き詰まりやすい部分です |
| 合奏・本番の経験 | 自分で参加の機会を探す必要があります |
読譜そのものに不安がある方は、楽譜の読み方もあわせてご覧ください。独学でも進めやすい領域です。
独学の弱点は、自分では確認しにくいという点に集約されます。そこを補う工夫を5つ挙げます。
弾いている最中は、自分のフォームも音も客観的には確認できません。スマートフォンで横から一度撮るだけで、ネックの角度、右手の位置、肩の力みを確認できます。週に一度でも構いません。
何を、どのくらい、どんな手応えで練習したかを短く書き残します。停滞していると感じたとき、記録があれば原因を探る手がかりになります。記憶だけでは、原因にたどり着きにくくなります。
練習の順序がばらばらにならないよう、中心となる教則本を1冊決めます。分からない点を補うために、動画や補助教材を併用する方法は問題ありません。教材が合わないと感じたときは、無理に続けず見直します。
独学では、次に進むかどうかを自分で判断します。「一定のテンポで、音とリズムを崩さずに数回続けて弾けたら次へ」というように、質を含めた基準を先に決めておくと、判断が主観に流されにくくなります。
独学で行き詰まりを感じたときや、次の段階へ進むときに、クラシックギターの奏法を理解する講師や経験者から助言を受けると、自分では見えにくい課題を確認しやすくなります。
独学かレッスンかを、最初からどちらか一方に決める必要はありません。普段は独学で進め、行き詰まりを感じた段階で体験レッスンを受け、現在の課題や継続的な指導の必要性を確認する方法もあります。
初めて演奏を確認する際には、出ている音だけでなく、右手の角度、左手首の状態、肩の力み、楽器の支え方なども重要な確認点になります。こうした部分は、録画だけでは判断しにくい場合があります。
指導現場では、独学経験のある方から、フォームや音色を一度確認したいという相談を受けることがあります。独学で試行錯誤してきた方は、現在の悩みを言葉にしやすく、講師とも課題を共有しやすい傾向があります。独学で過ごした時間は、レッスンを受けるうえでも決して無駄にはなりません。
独学かレッスンかという形式よりも、続けたいという気持ちのほうが先にあります。その気持ちを保てる方法を選ぶことが、結果として上達につながります。
教室での学び方については、クラシックギター教室の選び方と体験レッスンで詳しく整理しています。
どちらが優れているかではなく、どちらが自分の性格と目標に合っているかです。
独学が向いている方
レッスンが向いている方
どちらか一方に完全に当てはまる方は、多くありません。まず独学で始め、行き詰まったところでレッスンを検討するという順序も、十分に現実的です。
技術が中級以上に進んだときに何が課題になるかは、クラシックギターの練習方法【中級者編】もあわせてご覧ください。
無理ではありません。ただし、フォームや音色といった、自分では確認しにくい部分に難しさがあります。何を目指すかによって、独学で十分な場合と、途中で助言が必要になる場合があります。
練習の頻度と目標とする曲によって大きく異なります。短い単旋律であれば比較的早い段階から取り組めますが、独奏曲を仕上げるには相応の時間が必要です。独学の場合、進む方向を誤ると停滞が長引くことがあります。
どちらにも役割があります。教則本は課題が段階的に並んでいるため、進む順序を組み立てやすくなります。動画は、姿勢や右手の動きを立体的に確認できます。併用しつつ、進度の管理は教則本を軸にする方法が現実的です。
できないわけではありませんが、動画は演奏の一例を見せてはくれても、自分の動きが適切かどうかまでは教えてくれません。録画による自己確認と組み合わせることをおすすめします。
直せます。ただし、身につけるときとは別の時間がかかる場合があります。早い段階で一度確認してもらうほうが、結果的に近道になることもあります。
遅すぎることはありません。独学の経験があると、何を教わりたいかが具体的になっているため、講師とも課題を共有しやすくなります。
クラシックギターは、独学でも始められます。難しいといわれるのは、フォームの課題に気づきにくい、音色や脱力が言葉では伝わりにくい、進む順序を判断しにくい、定着した動きは修正しにくい。この4点に理由があります。
こうした弱点を意識して補うことで、独学をより安全に、継続しやすい形で進められます。録画による自己確認、練習記録、主教材を絞ること、そして節目で講師などの助言を受けること。独学とレッスンは、どちらかを選ぶものではありません。
大切なのは、続けたいという気持ちのほうです。まず始めてみて、続けていく中で自分に合ったやり方を見つけられれば、クラシックギターという奥行きのある楽器を長く楽しむための道筋が見えやすくなるでしょう。

当教室主宰の著書「音楽教育のススメ(幻冬舎)」