リズム感は生まれつき?研究でわかる個人差と、練習で変わること

「リズム感は生まれつきだから」と言われることがあります。実際、音楽を始めたばかりの時点で、拍を取りやすい方と、そうでない方がいるのは確かです。

ただし「リズム感」は、科学的に一つの能力を指す統一的な専門用語ではありません。拍や時間的なパターンを捉え、記憶し、身体や演奏で表すという、性質の異なるいくつかの働きが含まれます。研究では、拍の知覚、時間の聴き分け、身体運動との同期、リズムの記憶や再現などを、別々の課題として調べます。

この記事では、まず「リズム感」と呼ばれている力を分けて整理します。そのうえで、研究で報告されていることと、学び方について、層を分けて扱います。なお、聴き分けや歌唱も含めた音楽の力全般については、音楽センスとは?で扱っています。

「リズム感」と呼ばれる力を分けて考える

区分内容つまずきの現れ方
①拍や拍子を捉える音楽のなかから一定の脈や、強弱のまとまりを見つけるどこで手を打てばよいか分からない
②時間・パターンを聴き分けて記憶する長短、間隔、アクセント、リズムパターンの違いを捉え、保持する似たリズムの区別がつきにくい/覚えていられない
③拍へ動きを合わせる手拍子、歩行、演奏などを、外から聞こえる拍と合わせる分かってはいるが、動きが遅れる、または走る
④再現し、保ち、変化へ対応する聴いたパターンを返す、テンポを保つ、速度の変化へ合わせる途中でテンポが変わってしまう
⑤楽譜と結びつける音符・休符・拍子記号を、聴覚や身体の動きと関連づける楽譜を見た瞬間に分からなくなる

このうち⑤は、楽譜を使う音楽を学ぶ場合に必要となる学習技能であり、リズムに関する能力そのものと同一ではありません。楽譜を用いない音楽や、即興的な音楽活動もあります。

また、この区分は、次に何を確かめるかを決めるための実用的な見取り図であり、唯一の分類ではありません。五つは独立しておらず、互いに関わり合っています。音楽の力を広く捉えるときには、これらはまとめて「リズムや時間を扱う力」として語られることもあります。

リズムに関する個人差と遺伝研究

リズムに関する課題の成績に個人差があること自体は、否定されていません。

近年は、大規模な遺伝情報を用いた研究も行われています。ただし、そこで主に測定されたのは「音楽の拍に合わせて手拍子できるか」という自己申告の項目であり、この記事で挙げた五つの区分すべてを測ったものではありません。報告されているのは、一般的な遺伝的な違いが個人差の一部と関連する、という内容です。

ここで注意したいのが「遺伝率」という言葉です。

遺伝率とは、ある集団のなかに見られるばらつきのうち、どれくらいが遺伝的な違いによって説明されるかを示す統計量です。「ある人の能力のうち、何割が遺伝で決まっているか」という意味ではありません。

さらに、二つの点に注意が必要です。第一に、遺伝率は集団と環境に依存します。調査した年齢層、文化、音楽の経験、教育の機会、測定の方法が違えば、推定される値も変わります。第二に、遺伝率は「変えやすさ」を表しません。遺伝率が高いとされる場合でも、環境や学習によって変化することがあり、逆に遺伝率が低いから容易に変えられるとも限りません。

練習や経験で変わること

現時点で言えること
個人差拍への同期やリズムの課題には、個人差がある
遺伝的な関連特定のリズム関連の指標について、遺伝的な要因との関連が報告されている
学習による変化一部の知覚・同期・再現の課題では、経験や練習による変化が観察されている。ただし効果は一様ではない

繰り返し取り組むことで、新しいリズムのパターンに合わせられるようになるという実験結果や、音楽を学んだ年数と、拍のずれを聴き分ける成績との関連が報告されています。

ただし後者には、切り分けの難しさがあります。もともと得意だった方が音楽を選び、続けた可能性を除外できないためです。研究者自身も、因果関係を確かめるには介入研究が必要だとしています。

したがって、次のように言うのが正確です。リズムに関する課題のなかには、練習や経験によって成績が変化するものがあります。ただし変化の程度は、課題、練習の方法、これまでの経験、身体的な条件などによって異なり、すべての人・すべての側面が同じように変わるとは限りません。

ここまで見てきたとおり、「生まれつきで決まっている」も、「生まれつきはまったく関係ない」も、報告されている内容とは合いません。遺伝的な影響が報告されていることと、能力が固定されていることは、別の話です。

音の高さを捉える力との関係

音の高さを捉える力と、拍や時間的なパターンを捉える力は、研究では異なる課題として測定されます。ただし、実際の音楽では互いに関わり合っており、一人のなかで両方の課題が重なる場合もあります。

この記事では、主に拍・タイミングの側面を扱います。

現在の課題をどのように確かめるか

指導の場でリズムについてのご相談を受けたとき、まず確かめるのは「どこでつまずいているか」です。

  • 拍そのものを捉えられているか
  • 聴いたリズムを覚えていられるか
  • 身体の動きを拍に合わせられるか
  • 楽器を持つと崩れるか
  • 楽譜との対応で止まるか

手拍子ではそろうのに、楽器を持つと崩れるという方がいます。この場合、拍の捉え方そのものではなく、演奏動作が加わったことで負荷が増えている可能性があります。片手だけにする、楽譜を見ずに弾くなど、条件を一つずつ減らして確かめていきます。

テンポを落とすと合わせやすくなる場合も同様です。ゆっくりにすると、動作にかけられる時間、聴き取りの時間、記憶の負荷、楽譜を読む負荷、注意の配り方など、いくつもの条件が同時に変わります。テンポを下げた結果だけで、原因を一つに決めることはできません。

身体を使ってリズムを学ぶ方法

リズムを学ぶ方法の一つに、歩く、手を打つ、身体を動かすなど、拍を運動と結びつける活動があります。

当教室では、幼児リトミック=ソルフェージュにおける「即時反応」——音楽が鳴ったら身体を動かす活動——を、音楽を聴いて動きへつなげる学習として重視しています。リトミックを提唱したエミール=ジャック・ダルクローズは、感じ取ったことを筋肉に伝え、動きとして表す力を「筋肉感覚」と呼びました(『音楽教育のススメ 改訂版』第1章)。

ソルフェージュでは、リズム譜を見ながら、一定のテンポを保って手で打ったり声に出したりする訓練を行います。拍の積み重なりによって拍子が成り立ち、強拍と弱拍のまとまりを感じ取ることで、リズムは平板な音の並びではなく、表情のある流れとして表現できるようになります。

これらは、リズム学習の唯一の方法や、すべての人に共通する固定された順序ではありません。年齢、身体の条件、学習の目的に応じて、聴く、動く、数える、読む、演奏するといった方法を組み合わせます。

大人から取り組む場合

「子どものうちでなければ身につかない」と言われることがありますが、そう言い切れる根拠はありません。当教室が刊行した音楽教育のススメ 改訂版にも、音楽教育を始めるタイミングに遅過ぎることはない、という考え方が示されています。

大人から始める場合も、拍の知覚、動きとの同期、リズム譜の理解など、現在の課題を分けて確認できます。言葉による説明が役立つ方もいれば、実際に歩く、手を打つ、演奏するといった方法のほうが分かりやすい方もいます。年齢によって、適した方法が一つに決まるわけではありません。リズムに限らず、大人から基礎を学び直す進め方については、大人から始めるソルフェージュで扱っています。

自主練習で確かめられること

  • 短い課題から始める(数小節、あるいは一つのパターンだけ)
  • テンポを下げて確かめる
  • 一度に一つの条件だけを変える
  • 録音して、あとから聴き返す
  • 歩きながら聴く、手を打ちながら聴く

気をつけたいのは、合っているか外れているかを判定するだけの場にしないことです。正誤の確認に終始すると、どこに負荷がかかっているのかが見えにくくなります。「どこまではそろっていて、どこから崩れたか」を確かめるほうが、次に取り組むことが見つかります。

よくある質問

大人になってからでも、リズムの課題に取り組めますか

年齢によって取り組めなくなるということはありません。拍の知覚、動きとの同期、リズム譜の理解など、現在の課題を分けて確認するところから始められます。ただし変化の程度は、課題や方法、これまでの経験によって異なります。

拍は分かるのに、演奏するとリズムが崩れるのはなぜですか

拍を捉えることと、演奏動作を伴いながら拍に合わせることは、別の課題です。楽器を持つと、指や腕の動き、楽譜を読むこと、音を聴くことが同時に必要になり、負荷が増えます。テンポを落とす、片手だけにする、楽譜を見ずに弾くなど、条件を一つずつ減らして、どこで崩れるのかを確かめます。

遺伝的な影響があるなら、練習しても変わりませんか

遺伝的な影響が報告されていることと、能力が固定されていることは別の話です。遺伝率という数字は、ある集団のなかのばらつきを説明するものであり、個人の将来を示すものではありません。一方で、練習によってすべての人・すべての課題が同じように変化するとも言えません。まずは、どの課題でつまずいているかを分けて確かめることをおすすめします。

リズムに苦手意識があっても、楽器を始められますか

始められます。リズムに関する力は、楽器を学ぶ過程そのもののなかで扱われていきます。始める前に備えておかなければならない条件ではありません。

まとめ

「リズム感」と呼ばれている力は、一つの能力ではありません。拍を捉える、聴き分けて記憶する、動きを合わせる、再現して保つ、楽譜と結びつける——複数の課題が含まれています。

リズムに関する個人差については、遺伝的な要因との関連が報告されています。ただしそれは、個人の将来を示すものではありません。一方で、練習の効果も一様ではありません。「決まっている」も「関係ない」も、どちらも正確ではないというのが、いま言えることです。

「リズム感がない」と一言でまとめてしまうと、次に何をすればよいかが見えなくなります。拍なのか、記憶なのか、動きなのか、楽譜なのか——どこで止まっているかまで降りていくことで、取り組む内容が具体的になります。

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