ヴァイオリンを習い始めると、「ソルフェージュも学んだほうがよいのか」と迷うことがあります。ソルフェージュを必ず別の科目として受講しなければヴァイオリンを学べない、という意味ではありません。一方で、ヴァイオリンの演奏では、音程を聴き分ける力、楽譜から音楽を読む力、拍や和声を捉える力が実際の演奏と密接に関わっています。この記事では、ヴァイオリンという楽器の性質から、ソルフェージュで扱われる能力がどこで使われているのかを整理します。ソルフェージュそのものの内容はソルフェージュとは?で解説しています。
ヴァイオリンの指板にはフレットがありません。ピアノのように鍵盤を押せば決まった高さの音が出る楽器と違い、演奏者自身が指の位置を調整して音程をつくります。そのため、目標とする音を頭の中で思い描き、実際に鳴った音を聴いて修正する力が、演奏と切り離せません。
ヴァイオリンのイントネーション(音程)学習に関する査読研究では、先行する教育研究や指導実践を踏まえて、目標となる音を頭の中で思い浮かべ、実際に弾いた音を聴いて比較し、必要に応じて指の位置を調整する、という過程が整理されています。また、音楽大学レベルの学生を教える専門ヴァイオリン教師を対象にした事例研究では、イントネーション指導の主要な目標として、左手の位置と技術の確立と並んで、聴く力の向上が挙げられています(いずれも文末の参考文献)。
調弦も同じです。基準となる音を確認しながら開放弦の音高を合わせますが、チューナーを使う場合でも、最終的には自分の楽器から出ている音を聴いて調整する場面があります。調弦の手順はヴァイオリンの音の出し方で扱っています。
初期の教材に書かれた指番号は、演奏を始めるための有効な手掛かりです。ただし、学習が進むにつれて、指番号だけでなく、音の高さ、リズム、拍子、調性などを楽譜から読み取る必要が出てきます。ポジションが変われば同じ指番号でも別の音になり、同じ音を別の弦で取る場合もあります。
読譜には、書かれた音の高さだけでなく、リズム、拍子、調性や音楽の流れを読み取ることも含まれます。楽譜そのものの読み方は楽譜の読み方で解説しています。
ヴァイオリンでは重音や和音を演奏することもありますが、アンサンブルでは一つの旋律線を担当する場面もあります。当教室では、自分の旋律だけでなく、伴奏や他の声部との和声の関係にも注意を向けることを重視しています。
当教室のヴァイオリンレッスンでは、ヴァイオリンが旋律だけに注意を向けるのではなく、その背景にある和声も感じられるよう、早い段階からヴァイオリン同士やピアノとのアンサンブルを指導に取り入れています。ソルフェージュでは、和声を聴き取る課題や、旋律を和声の中で捉える学習も行われます。こうした学習は、自分のパートを他の声部との関係で考える一つの手掛かりになります。
ソルフェージュの科目と演奏の動作が一対一で対応するわけではありません。ヴァイオリンの練習のそれぞれの場面で、どのような能力が関係しているかを整理すると次のようになります。
| ヴァイオリンの場面 | 関係する能力 |
|---|---|
| 調弦 | 基準となる音と、自分の楽器の音を聴き比べる |
| 左手の音程 | 弾く前に目標の音を思い描く。弾いた音を聴いて修正する |
| 楽譜を読む | 音名・リズム・拍子・調性を読み取る |
| 初めての曲 | 楽譜から音楽を予測する(初見) |
| アンサンブル | 自分の旋律を、拍・和声・他の声部との関係で聴く |
これらは、ヴァイオリン演奏のさまざまな場面で用いる能力です。ソルフェージュは、それらを体系的に整理して学ぶ枠組みだと捉えると、ヴァイオリンとの関係が見えてきます。
必ず別の科目として受ける必要はありません。音程・読譜・和声の理解は、ヴァイオリンのレッスンの中で扱える要素でもあります。一方で、音楽学校の受験を目指す場合や、読譜・聴音を集中的に伸ばしたい場合には、独立した科目として体系的に学ぶ方が進めやすいことがあります。楽器のレッスン内で足りるのか、別に時間を取るのかは、目的と段階によって異なります。
当教室では、その両方の形を扱っています。ソルフェージュを楽器演奏と切り離した知識だけとして扱うのではなく、ヴァイオリンなどの専門科目のレッスンと関連づけて指導するとともに、ソルフェージュレッスンとして独立して学ぶこともできます。ヴァイオリンのレッスンは「テクニック」「選曲」「アンサンブル」「楽器」の4つの観点で進め、音程や読譜、和声の理解はその中で確認していきます。
独学では、自分の音程のずれや、その原因を一人で判断しにくい場合があります。録音して聴き直したり、基準音と比較したりするほか、ときどき指導者など第三者に確認してもらう方法もあります。独学で確認できることと判断しにくいことはヴァイオリンを独学で始めるで整理しています。
始める年齢に決まりはありません。子どものヴァイオリンについては子ども・幼児のヴァイオリン教室を、大人から始めるソルフェージュについては大人から始めるソルフェージュをご覧ください。
ヴァイオリンでは、音程を自分でつくって耳で確かめること、楽譜を音楽として読むこと、一つの旋律を和声の中で聴くことが、演奏そのものの一部になっています。ソルフェージュは、こうした能力を体系的に整理して学ぶ枠組みです。別の科目として学ぶかどうかは、目的や段階によって異なります。大切なのは、ヴァイオリンの演奏で使っている「聴く」「読む」「音楽の関係を捉える」という力を、演奏技術と切り離されたものとして考えないことです。
Pardue, L. S., & McPherson, A. (2019). Real-Time Aural and Visual Feedback for Improving Violin Intonation. Frontiers in Psychology, 10, 627. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2019.00627
Ha, J. J. (2015). Teaching intonation in violin playing: A study of expert string teaching. Australian Journal of Music Education, 2015(2), 224–236.
当教室主宰の著書「音楽教育のススメ(幻冬舎)」